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  • ハッピーメール【18禁】

唯とリト 第三話夏祭り 後編

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二人は一通り祭り会場を一周すると、神社の境内に来ていた
ここは露店などがない代わりに、カップル達の溜り場となっている場所
腕を組んで歩く男女に、ベンチに座ってキスをし合う者、木の影に隠れてイチャつく様子に唯の顔も自然と赤くなっていく
(な、なんてハレンチなっ!!あんなコト人前でよくも……⁄⁄⁄⁄)
「ココすげー……」
舌を絡め合う男女を隣でまじまじと見続けているリトに唯の厳しい視線が飛ぶ
「結城くん!あなたなに真剣に見てるのよ?」
「いや、だって…」
顔を赤くさせながら言い訳をしても説得力があるはずもなく、唯の目はますます厳しくなっていく
「まったく!あなたってどこでも…」
普段と同じ様に振舞っている唯だったが、実は心の中はたいへんだった。
周りのカップル達の大胆な行為に、さっきから心臓の音がドキドキと鳴りっぱなしだ
どんどん早くなっていく鼓動に自然と顔も赤くなっていく
唯はそっとリトの横顔を見つめた。その顔は複雑な表情を浮かべている
さっき意地を張ってリトの手を拒んだことが悔やまれた
せっかくのデートを風紀活動だなどと言ってしまった自分に不甲斐なさを感じた
(私が言い出したことなのに……)
からっぽの手が寂しく感じられる。リトのぬくもりが恋しい
リトを見つめる唯の目に熱が帯びていく
そんな唯の複雑な思いがこもった視線にリトはようやく気付く
「ん?どうしたんだよ?」
「な、なんでもないわよ!早く行くわよ…」
境内に背を向けると唯は再び祭りの喧騒の中に入っていく
人を掻き分けながら進む唯の背にリトの手がかかる
「ちょっと待てって!こんな人がいっぱいだと迷子になるぞ」
「なるわけないでしょ!だいたいあなたが逸れなければ私は…」
そう言いながら進もうとする唯の手にリトの手が重ねられる
「ちょ…ちょっとなにするのよ!?」
手を握り締めるリトに唯はびっくりして思わず声を大きくする
「風紀活動だろうと、なんだろうとおまえを一人にはできねーよ!」
「え…?」
リトの手に力が込められる
「それに……それに変なヤツが来てもおまえを守れないだろ」
リトの力強さといつものやさしいぬくもりが手に伝わってくる
その目は真剣だった
「う、うん……////」
唯は短く応えると、キュッと手を握り返した

「そう言えばおまえ腹減ったりしてないのか?」
「……少し」
ぼそっと話す唯の手を引きながらリトが進みだす
「それじゃあ、なにか食いにいくか。おまえなにが食べたい?」
唯は少し目を彷徨わせると、すっと一軒の露店へと指差す
「え?これって……おまえこんなのが好きなの?」
意外な唯の選択にリトの目も丸くなる
「わ、悪かったわね⁄⁄⁄⁄」
恥ずかしさで顔を俯かせる唯の手を取ると、リトは露店のおじさんに声をかける
「すみません、リンゴ飴二つください」

リトは飴を受け取るとお腹が空いていたのか早速口を近づける
「ダメよ!立ちながら食べるなんて。それに歩きながらなんてもっとダメ!!」
「おまえなァ……こんな時ぐらいいいじゃねーか」
「こんな時だからこそよ!とにかく風紀の乱れに繋がることは私が許しません!」
頑として言い放つ唯に溜め息を吐くと、再びリトは唯の手を取って歩き出す
「ったくしょうがねえな……どっか座れる場所は……」
「しょうがなくなんてないわ!だいたいあなたは日頃から…あっ」
メンドクサそうに顔をしかめるリトに注意をしようとしたその時、目に映ったあるモノの姿に唯の足は止まった
「ん?どうしたんだよ?」
ぼーっとしている唯に怪訝な目を向けると、リトはそのままその視線を追ってみる
向かいに並ぶ露店の一つ、射的屋
そして、唯の見つめる視線の先には、茶色い毛並みをした子犬のぬいぐるみがあった
「なんだよおまえ、あんなのが欲しいのか?」
リトの言葉にぼーっとしていた顔をハッとさせると、唯は慌てて否定する
「ち…違うわよ!私はただ……」
「……」
リトは手に持っていたリンゴ飴を唯に渡すと、射的屋の親父に声をかける
「おっちゃん一回!」
おもちゃの銃に玉を込めるとリトは他の景品には目もくれず、目当ての物に狙いを定めて撃つ
(結城くん…?)
少し大きめなソレは一回や二回当てた程度ではグラつくだけだったが、三回四回と当てる度に揺れは大きくなり、五回目でようやく下へと落ちた
リトは射的屋の親父から景品を受け取ると、少し照れくさそうに唯に渡す
「ほら、これが欲しかったんだろおまえ」
「ぁ……あ…」
リトから渡された物を受け取っても唯の口からは小さな呟きしか出てこず、もじもじと体をくねらせるだけだ
「なんだよこれが欲しかったんじゃなかったのかよ?」
「ち、違うの…そうじゃなくて……」
歯切れの悪い唯を怪訝な顔で見つめるリトに、射的屋の親父が声をかける
「そこのお二人さん!!祭りの日にケンカたァいただけねーな」
「え!?いやオレ達別にケンカしてるわけじゃ…な、なあ唯?」
リトの言葉にも唯は顔を背けて応えようとはしない
(な…なんなんだよコイツ!?)
リトは眉間に皺を寄せムッとした顔になっていく
そんな二人の様子を見ていた親父の目が輝く
「ふ~んなるほどね…。俺の経験から言わせてもらえば彼女、きっとあんたからのプレゼントがうれしくて、どうしていいのかわかんねーのさ」
「えっ!?」
目を丸くするリトは慌てて唯の方を振り向く
「いや~カワイイ子じゃねーか!」
「唯……」
真っ赤になった顔を俯かせていた唯は二人のやり取りに顔を上げる
「ち…違います!!私は別に…だいたいコレは彼が勝手にやったことなんです⁄⁄⁄⁄」
全力で否定する唯に射的屋の親父は笑い出す
「そんなにテレなくてもいいじゃねーか!青春ってのは大事なモンだぜ」
話のまったく噛み合わない相手に唯の顔はムッとなっていく
「あ、あなたちょっとは人の話を……」
「お…おいこんなところでそんなコトやめろよな」
妙に冷静なリトに唯はつい怒りの矛先を向けてしまう
「だ、だいたいあなたが私の話を聞かずに勝手にするからこんなことに……」
「はぁ?なんでオレのせいになるんだよ?おまえが欲しそうな顔してたからオレは…」
そんな二人のやりとりを見ていた親父は交互に二人の顔を見つめて頷く
「ケンカするほど仲が良いって昔から言うしな。あんたら見てるとこっちまで微笑ましくなってくるよ。あんたらお似合いのカップルだぜ!」
「なっ!?」
「お似合いの……」
その言葉に耳まで真っ赤になった二人は、さっきまでの言い合いも忘れて、お互いの顔を見つめる
そんな二人の様子をにやにやと見ていた親父は、ついにぷっと噴出し豪快に笑い出した

そして、そんな様子を少し遠くから見ている者がいた
「…あれって結城くんと古手川さんよね」

それからリト達は再び人の波の中を歩いていた。リトの隣には唯と、そして、春菜がいた
「…にしてもララ達なにやってんだよ……。西連寺を置いて勝手にどっかに行くなんて」
「そんなことないよ。私がぼーっとしてたからはぐれちゃったんだし…」
小さな声で春菜が応える
「西連寺はなにも悪くないよ!悪いのはララ達なんだしさ。だいたい美柑のヤツはなにやってんだよ……なあ、唯?」
「……そうね」
怒ってるわけでも、楽しそうでもない唯の声にリトは一瞬眉を寄せる
「と、とにかく二人が見つかるまでオレ達と一緒にいるといいよ」
「う…うん。それはうれしいんだけど…。私、迷惑になってない?その…結城くん達の……」
リトは顔を赤くさせると、手で全力で否定しながら必死な声をだす
「そ!そんな事ねーよ!!オレ達はただおもしろそーだなァって感じでココに来てるだけだし!それに、こーゆートコは大勢の方が楽しいしさ!!」
その言葉に唯の目がピクリと反応する
「……ホントに?」
春菜の声はリトではなく、その隣を歩く唯に向けられている様だった
唯は黙ったまま地面を見つめていたが、やがてぽつりと言葉をこぼす
「心配しなくてもいいわよ。私もそう思うし……。二人より三人の方が楽しいじゃない」
数秒の間を置いて応えたそれは、感情のあまりこもって無い淡々としたモノだった
春菜はそんな唯に違和感を覚えるも、安心したかの様に笑顔を浮かべる
「…うん、ありがとう古手川さん」
「別にいいわよ、こんなこと…」
そんな二人のやりとりに、リトは、気付かれないように唯を横目で見つめる
黙ったまま地面を見続ける唯は、さっきまでの雰囲気はどこにもなく、どこか寂しそうだった
(なんだよ…。どうしたんだこいつ……?)
リトは聞かれない様に心の中だけで唯に呟いた

それから3人はララ達を見つけるついでに、様々な露店巡りをした
ヨーヨー釣りに焼きそばを食べたりカキ氷で喉を潤したり、そして、金魚すくい
(オレはこーゆーの得意なんだ!カッコイイとこ見せてやる!!)
美柑からは散々ムダな才能だとからかわれてきたリトだったが、二人にカッコイイところ見せようと張り切って挑んだ
が、中々うまく掬うことができず、結果0匹に終わってしまう
「気にしないで結城くん。ほら、金魚すくいって難しいと思うし…」
「……ゴメン、面目ない……」
春菜の励ましにもリトは力なくうな垂れたままだ
そんな二人の様子を唯は少し後ろから黙って見ていた
「にーちゃん彼女をあんまり困らせたらダメじゃねーか。彼氏ならもっとドンと構えてなきゃな。
ほら、オレからあんた達カップルにサービスだ!受け取りな」
そう言って1匹の金魚を差し出す露店の親父に、リトと春菜は耳まで真っ赤にさせる
「カカ…カ、カップル~!?」
「お…おじさん待って、私たちそんなんじゃ……////」
二人の反応に唯の表情はムッとしたものに変わっていく
「なによ、もっとちゃんと否定しなさいよ……」
唯の言葉はリトに届くことなく祭りの雑踏の中に消えていった

「げ、元気出して結城くん!ホラ、おじさんがサービスで1匹くれたじゃない。…それよりゴメンね、カップルだなんて言われちゃって…」
「え!?いや…オレは別に気にしてないっていうか…その……」
リトはチラリと唯の方を見る。唯はそっぽを向いていた
(唯…)

一週間前のあの日、珍しくお説教以外で唯の呼び出しを受けたリトは、少しビクビクしながら唯との約束の場所まで行った
『今日はあなたに大事な話があって呼んだの。一週間後の日曜日に近所の神社でお祭りがあるんだけど。その…結城くんその日って空いてる?』
ぼーっとしているリトへ、唯はなぜか大慌てで付け加える
『も、もちろんデートってわけじゃなくて…そう!これは風紀活動の一環として私はね…』
どんどんと一人焦りだす唯へ、リトは短くいいよと応えた
唯のほっとした様な表情と、どこか寂しげな顔に少し引っかかるモノがあるものの
リトは心の中で喜びを爆発させた
唯からの誘い
それはリトにとっては意外なことであり、そして、すごくうれしいことだった
きっと何度も何度も頭の中でなにを言おう、どう言おうと、繰り返し練習したのだろう
唯らしいギコチない言葉の中に、唯のその日への思いがいっぱい詰まっていると感じた

なのに自分は……
あいまいな言葉で濁す自分を見つめる春菜へ、リトは、思い切ってホントのことを言おうと口を開く
「あ、あのさ、西連寺っ!」
「どうしたの?」
思いのほか大きな声を出してしまったことに、リトは躊躇ってしまったのか少し間を空けてしまう
そして、その声にこちらを見つめる唯の姿が目に映る
変な緊張が喉を締め付けていく
「えっと…あのさ…」
「うん」
続く言葉が出てこない。心臓がドクンドクンと早くなっていき、手に汗が浮かんでくる
ただ本当のコトを言うだけなのに
「さ、西連寺その…オレ……オレは…そうだ!!腹減らない?タコ焼きでも食おうぜ」
「うん!」
ハハハと力なく笑うリトに唯は溜め息をこぼすと、その横を黙って通り過ぎていく
「ゴメン、唯……」
横を通り過ぎる時、その声が聞こえているのかいないのか、唯はリトの顔を一度も見ようとはしなかった

結局、再び祭りの中を歩く3人の中で唯の表情は晴れないばかりか、今はその顔に複雑なものを浮かべていた
唯はリトの性格をよく知っている。普段は頼りないしデリカシーもない。だけど、やる時はちゃんとしてくれる
そして、なによりどんな時でもやさしさがあった
だから今にしても、春菜をこんなところで一人っきりにはさせられないという思いが、あることもわかっていた
(だからって……)
隣で仲良く話す二人に唯の中で、もやもやとしたモノが生まれる
リトと春菜は今、高1の時の思い出話に夢中になっていた
臨海学校の水着盗難の時のこと、文化祭の話、クリスマスパーティの話にララが宇宙人だとバレた時のこと
そのどれもが唯の知らない話だったし、そして、唯の知らないリトだった
リトの隣を並んで歩く唯の表情は優れない
リト達の話に相づちをうったり、頷いたりはするが、とても楽しめる気分ではなかった
自分の知らないリトを知る春菜
どういう理由でも春菜を思うリトのやさしさに複雑な感情が芽生える
なによりリトのやさしさが自分以外に向けられていることに、春菜への嫉妬が生まれる
もちろんそれはただの我がままだと思うし、いけないことだとわかってはいた
わかってはいるのだが……
隣で自分の知らない話をしている二人に唯は顔をムッとしかめる

隣で黙って歩く唯にいつもとは違うなにかを感じたのか、リトは小さな声で話しかける
「唯?」
「……」
「さっきは悪かったよ。その、オレちゃんとするから、だから…」
「……」
唯はなにも答えない
心配になったリトは唯の肩に手を置こうと手を伸ばす
その手から逃れるようにリトから距離を置くと、唯は一人黙って歩き出した
「お、おい…」
「ほっといて!一人になりたいのっ」
こちらを振り返りもせずそう言い放つ唯の口調は、いつにもまして強く、そして、どこか悲しそうだった
「あいつなに考えて…。ゴメン、オレちょっと追いかけてくる」
「あっ!結城くんちょっと待って私が……」
なにか言いかけた春菜を後ろに残し、リトは唯の後を追う
「どうしたんだよ唯のヤツ……」
悪態を吐きながらも、リトは、自分の不甲斐ない態度で唯を怒らせていることをわかっていた
わかってはいるがどうすることもできない
思いが空回りをしてしまい春菜に本当のコトを言えないでいた
「クソっ!なにやってんだよオレは…」
人ごみを掻き分けながら進んでいくと唯の後ろ姿が映る
「あっ!唯ッ」
リトは唯の前に回りこむと肩を掴んで捕まえる
「…なによ?」
「なによっておまえな…。なに考えてんだよ?」
その言葉に唯は顔をムッとさせる
「それは私のセリフでしょ!あなたこそなに考えてるのよ?だいたい今日は私たちの……」
「私たちのなんだよ?」
「それは……」
唯は黙って俯いてしまい、そのまま黙り込んでしまう
「とにかく一度戻ろうぜ。西連寺も心配してるだろうしさ」
「……なによそれ?」
「え?」
ぽつりと呟いた唯の声にリトは間の抜けた返事を返す
唯は俯いていた顔を上げると、そんなリトを睨み付ける
「どうして…どうして西連寺さんの心配ばかりするのよ?どうして西連寺さんばかりなの?私のことはどうでもいいの?
私だって一緒にいるのに、私はあなたのなんなの?ねえ、答えてっ!?」
唯の大きく強い口調は周囲の人たちの視線を集めるが、そんなことは気にも止まらないのか、唯はますます声を荒げる
「だいたいあなた今日がなんの日かわかってるの?すごく大切な日なのよ!それなのに…それなのに……」
リトが春菜を気にかけてるのはわかる。わかってはいるがそれが必要以上に唯の目には映っていた
自分の知らない話、目の前で春菜にデレデレしているリト
三人でいるはずなのに自分一人だけ取り残されている感覚
なによりリトが自分以外の女の子と仲良くしているのが嫌だった

だって、だって結城くんは私だけの――――

再び俯いてしまった唯にリトは溜め息を吐く
「とにかくさ、こんなところじゃなんだからどっか違うところで話そーぜ、な?」
心配そうな顔で近づけてくるリトの手を、唯は、思わず払いのけてしまう
「もうほっといてっ!!」
少し赤くなった手とリトのきょとんとした顔に、唯は苦い表情になる

「ゴメン…なさい……」
「いや、別にいいけど…それより唯…」
いつも以上に暗く落ち込んでしまった唯に、リトもそれ以上声をかけられないでいた
祭りの賑やかでいて楽しそうな人々のざわめきの中で、二人の周囲だけポッカリと寂しい空間ができていた
なにもしゃべらなくなった唯へ必死に言葉を探すリト
だが、焦る気持ちがリトから冷静さを奪っていく
目の前で一人あたふたとしているリトへ、唯はすっと持っていたぬいぐるみを差し出した
「これちょっと持ってて」
なにも言わず反射的に受け取ったリトの胸に、嫌な不安が広がっていく
「えっ…あのさ唯、これって…その……」
唯はリトに背を向けるとそのまま歩き出す
「もしかしてオレ…嫌われた……?」
ぼーっとその背中を見続けていたリトは、ハッと我に返ると慌てて唯を呼び止める
その声に立ち止まった唯は、リトに振り返るとごにょごにょと何かをしゃべった
その顔はなぜか赤くなっていて、聞き取れない声と唯の表情にリトは怪訝な顔をする
リトは唯に駆け寄る
「どうしたんだよ?なに言ってんだかわかんねー」
唯は長い睫毛を伏せるかの様に真っ赤になっている顔を俯かせる
「もう…わかって……」
「え?」
ぼそりと小さな声で呟くだけの唯にリトは顔を近づけさせる
「唯?」
「……も、もういい加減わかって!トイレに行きたいだけなのっ////」
「あっ…」
ようやく納得したのかリトは一人顔を明るくさせる
「なんだ。そんなことならそうと言ってくれればいいのに」
「女の子にそんなこと聞くほうがどうかしてるわよ////」
唯は少し怒ったような目をするとくるりと背中を向けて歩き出した

リトは唯が終えるのを簡易トイレのある広場前で待っていた。待ってる間、腕の中の景品に目を落とす
茶色の毛並みをした子犬のぬいぐるみ
少し大きめなソレは両手で抱きしめるにはちょうどいいサイズで、今はリトの腕の中で将来の主になる人をリトと一緒に待つ
「オレなにやってんだよ……」
今日の自分の不甲斐なさに、リトに思わずぬいぐるみに話しかけてしまう
けれど、ぬいぐるみに話しかけても応えが返ってくるはずもなく、リトが溜め息を吐いていると後ろから声がかかる
「結城くん」
後ろにはいつの間にか春菜が立っていた

唯は鏡を見ていた。その口から溜め息がこぼれる
「はァ~私なにしてるんだろ……」
今日は色々と楽しみにして来た分、中々期待通りにいかないことに気持ちも沈む
(こんなに思ってるのに、こんなに楽しみにしてるのにどうしてうまくいかないの?)
唯の口からまた溜め息が漏れ、鏡に映る浴衣姿の自分を白く曇らせる
今日のために、リトが喜ぶと思って一生懸命選んできた浴衣
「結城くん私より西連寺さんといる方がいいの?私よりも……」
溜め息がこぼれ、唯の顔を寂しさが覆う

「ゴメン…西連寺のことほっといたままで」
申し訳なさそうに頭を掻くリトに、春菜はくすっと笑いかける
「ううん。私は別にいいの。それより結城くん、古手川さんは大丈夫なの?」
「あいつは…」
ぬいぐるみに視線を落とし言いよどむリトに、春菜が明るい声で話しかける
「それカワイイ子だね。どうしたの?古手川さんの持ってた物だよね?」
「え?ああ…これは」
リトは一瞬目をさ迷わせた後、再びぬいぐるみへと視線を戻す
「うん、これ古手川のなんだ」
「……」
「あいつコレが欲しかったみたいでさ、オレが射的で取ったんだ」

唯はトイレを出ると、暗く沈んでしまった自分の気持ちをなんとか押さえ込み、リトの下に急いだ
やせ我慢だとわかってはいたが、これ以上自分の気持ちで二人の雰囲気を壊したくないと思った
なによりこれ以上リトと気持ちが離れるのは嫌だと思った
そんな唯の周りを何組ものカップルが行き来する
自然と目は彷徨い、足は立ち止まってしまう
(私達だってちゃんとしたカップル…なのに…)
互いに肩を寄せ合って歩く姿に楽しそうにしゃべる様子に軽い嫉妬を覚える
頭になぜか春菜と楽しそうに話すリトの姿が浮かんだ
唯の足は自然と早足になる
(我がままだってわかってる!だけど、だけどやっぱり私は…)
リトの姿が目に入ると自然と笑みがこぼれる。唯はそんな自分を落ち着かせる様にゆっくりと歩き出した
「お待たせ。結城…え!?……また西連寺さんと一緒なんだ…」
春菜と話すリトの姿が唯の胸に重く圧し掛かる
「さっきまでは私と一緒だったのに、私を追って来てくれてたのに…」
唯は二人に気づかれないように近くにあった木の影に隠れてじっと二人の様子を見つめる
「なにしてるのよ私は…」
言葉とは裏腹に唯の心は二人を捉えて離さない。リトと春菜の二人を
「結城くん…」
唯は胸で手を握り締めてただ二人を見つめる

「オレ…さ、駅前で西連寺に今日は友達を待ってるって言ったじゃん?あれ…ホントはウソなんだ」
「……うん」

(それって私の…こと?)
木の影からかろうじて二人の会話が聞こえていた唯は、思わずリトの言葉に耳を疑う

「ホントは違うのに…ホントは一番大事なヤツなのにオレ……誰かにホントのこと言うのが恥ずかしくってさ」
「…うん」
言葉を探すようにゆっくりと話すリトに春菜はじっと耳を傾ける。そしてそれは唯も同じだった
「オレ古手川と付き合ってるんだ!二ヶ月前からさ…」
「うん」
「うんって……あれ?驚いたりしないの?」
春菜への思いは吹っ切れていたとはいえ、それでもかつて好きだった相手に告白するのは、それなりの勇気がいったことだった
それなのに、それをあっさりと受け取った春菜にリトは呆気に取られてしまう
「うん!だってわかってたし…と言っても、わかったのはほんのちょっと前なんだけどね」
少しはにかむ春菜にリトは慌ててワケを尋ねる
「えっと、それって……どういう…」
「うん実は……」
春菜はあの後、唯とリトを追って偶然話し合っている二人の姿を見つけたこと
そして、その話の内容を聞いて、二人の関係を知ってしまったことをリトに告げた

「ご、ゴメンなさい!悪いことだってわかっていたんだけど…どうしても気になって…」
「いいって!気にすることないよそんなこと。それより知ってたんだ…」
リトはほっとした様な少し複雑な表情を浮かべる
「うん…それに結城くんを見ていたらわかるしね」
「え!?どういう……」
春菜は悪いと思いつつもくすくすと笑う
「西連寺!?」
「ゴメンなさい……結城くんはね、私を見る時と古手川さんを見る時とじゃ全然違うから」
首をかしげるリト
「それはね…すごくやさしくて、愛情に満ちた感じ。そんな風に古手川さんのことを見ているんだよ」
「……なっ!違…そ、そんなことねーって!!オレは別に普通なワケでっ!」
真っ赤になって慌てて訂正しようとするリトへ春菜は笑いかける
「フフ、それを自然にできるところが結城くんの素敵なところなんだよ」
「オ…オレは別にそんなつもりであいつを見てるわけじゃ……⁄⁄⁄」
「だけど大切なんでしょ古手川さんのことが?」
さらに顔を赤くさせるリトを春菜は少し切なげに見つめる
「古手川さんがうらやましい……」
「え?」
思わずこぼれた自分の気持ちを誤魔化すように、春菜は慌ててリトが抱えるぬいぐるみを指差す
「だ、だからねきっと古手川さんも結城くんと同じ気持ちだから、もっと大事にしないと!」
「そ、そうかな~」
少し否定的なリトの態度に唯の顔がムッとなる
「うん!だってそれ…ぬいぐるみを見たらわかるから」
「え?これが?……オレは全然わかんねーけど」
春菜はリトからぬいぐるみを受け取るとその顔をじっと見つめる
「西連寺?」
「……フフ、やっぱり。このぬいぐるみ結城くんに似てるの」
「へ?」
リトは素っ頓狂な声を上げてもう一度ぬいぐるみの顔を見つめる
確かに髪の色とかは似てはいるのだが……
「そっかなー?」
「うん、顔とかそっくりだよ。結城くんが笑ったところに」
春菜にそう言われればリトも頷くしかない。リトはぬいぐるみを抱きかかえると改めて春菜に向き直る
「オレあいつを大事にするよ。今日みたいにウソなんてもうつきたくないからさ
あいつは……唯はオレの自慢の彼女だからさ!みんなに自慢できるオレの一番大切なヤツだから」
リトの真っ直ぐな言葉。それはいつか自分が聞きたかった言葉だったのかもしれない……
春菜はそんな自分の気持ちを心の奥に封じ込めると、リトの顔をもう一度見つめる
「うん!結城くんと古手川さんならきっとこの先も大丈夫だと思うから……。それじゃあ私もう行くね」
「え!?行くってでも一人じゃ……」
(やさしいな、結城くん……。だけどこれ以上一緒にいたらきっと古手川さんに悪いから)
心配そうに顔を見つめるリトに春菜は微笑む
「さっき結城くん達を探してる時に、偶然ララさん達も見つけたの。だから、心配しなくても大丈夫だよ。」
「そっか、じゃあもう安心だな。…それじゃあ気をつけてな西連寺」
リトはそう言うと春菜を見送った

(結城くん…)
二人の会話を一部始終聞いていた唯は、出るに出れない状況に頭を抱えていた
(あんなこと言われたらどんな顔をして結城くんに会えばいいのよ……)
『唯はオレの自慢の彼女だからさ!みんなに自慢できるオレの一番大切なヤツだから』
思い出すだけでも顔が熱くなる。何度でも聞きたい言葉
それでも唯は立ち上がると、少し勇気を出して茂みから一歩出る

「結城くん」
後ろから聞こえた声に慌てて振り向くと、少し顔を赤くした唯が立っていた
「あれ?おまえトイレに行ってたんじゃ……」
バツが悪そうに言いよどんでいる唯の様子に、リトはピンときた
「ああそっか…おまえさっきの聞いてたんだ」
「ゴメンなさい!悪いとは思ったんだけど…」
「うん…」
「……」
「……」
二人の間に微妙な空気が流れる
お互い言いたいこと、伝えたいこと、たくさんあるはずなのにそれをうまく言えないでいた
その時、祭り会場にアナウンスが流れる
『ただいまより恒例の花火大会を行ないますので、ご来場の皆様は……』
時刻は八時十分前、花火大会を告げるアナウンスに人々は色めき立つ
「やばっ…もうこんな時間かよ…」
一人焦りだすリトを唯は不思議そうな眼差しで見つめる
「結城くん?どうしたの?」
ぼーっとしている唯の手を掴むと、リトは、急に小走りで駆け出す
「ちょ…ちょっとどうしたのよ急に?」
「いいから!急がないと始まっちまう…」

「はぁ…はぁもうちょっとだから、がんばれよな唯」
「それはもうわかったから、どこに行くのよ?」
息も絶え絶えな二人は今、神社の境内の更に奥、どこに続くかもわからない山道に来ていた
周囲に明かりもなく、虫の鳴き声や得体の知れない物音にビクビクしながらも歩き続けていた
本当なら今すぐにでも帰りたい衝動をグッと我慢できるのも、ずっと手を繋いでくれているリトのおかげだ
けれどそれも限界に来ていた。さすがに目的もどこに行くのかも知らされていないのは辛い
そんな弱気になっている唯の手をギュッと握り返すと、リトは再び歩き出す
「結城くん、私もう足が……」
「もうすぐそこだからがんばって…」
その時、真っ暗だった山道に赤や青といった明かりが灯る
リトが振り返ると、花火大会の開始を告げる盛大な打ち上げ花火がどんどんと上がっていた
「うわぁ!始まっちまった」
リトは足を速めると、草木を掻き分けながらも森の中へと進んでいく
どんどん先へ進んでいくリトの背中を追うように、唯もその後を歩いて行く
「結城くん、いい加減にして!いったいどこに行くのか行ってくれないと私…」
自分の声を無視するかの様に先へ先へと進むリトに、唯のいらだちは募っていく
「結城くん聞いてるの?ちゃんと説明してくれないと…」
その時、前を行くリトがふいに止まる
「あった!ここだ」
「え?」
リトが身の丈ほどの草を払いのけるとその先は、小さな広場ができていた
「ホラ、唯お疲れ。到着したぜ」
リトの差し出す手を握り返すと、唯は森から一歩外に出た

雲一つない月明かりが、広場を明るく照らす
「ここって……」
「オレ子供のころよくこの神社で遊んでてさ。その時見つけたのがこの広場。
結構見晴らしがいいだろ?」
山の中腹にあるそこは、ちょうど境内の真上にあって、下に大勢の人達が見える
「すごい…こんなところがあっただなんて」
「ここだと人もこないし、周りに大きな建物とかもないからさ。絶好の穴場だろ?
花火もよく見えるし」
どこか得意げに笑うリトの顔を花火の色が染める
「いつか誰かと、って思ってずっと秘密にしてたオレだけのとっておきの場所なんだここ…」
「え?」
真っすぐ前を見つめるリトの横顔は、花火のせいなのかどこか赤くなっていた
「その…今日は初デートだろ?だからどうしてもお前とここに来たかったっていうか…////」
どんどん小さくなっていくリトの言葉に唯は、ただぼーっとその横顔を見つめる
「結城くん、今日がなんの日なのかわかってたんだ…」
「当たり前だろそんなことっ!」
照れくさいのか顔を背けるリトの横顔を、唯はまじまじと見つめる
赤くなっている顔に花火の青や黄色が重なっていくと、リトはその顔を真剣なモノへと変えていく
「さっきは悪かったな。いろいろと…」
「え…」
黙ってしまった唯にリトは頭を下げる
「オレ今日、おまえに言いたいこととかいっぱいあったんだけどさ、中々言えないどころか、おまえに色々変な誤解とか与えてたみたいでさ。その…ゴメンな唯」
「結城くん?」
「今日は初めてのデートの日だっていうのにオレなにやってんだよ……」
初じめてのデート――――
気付いていないと思っていた。なにも考えてくれていないと思っていた
誘った時、今日の態度
普段となにも変わらないどころか、目の前で仲良く話す二人に嫉妬すら抱いた
「ホントにゴメンな唯」
申し訳なさそうなリトの顔に胸が締め付けられる
唯はそんな自分の気持ちを隠すようにそっぽを向く
「……別にいいわよそんなこと!よ、よくはないんだけど…それより」
「それより?」
「わ…私の方こそさっきはあんな態度とって悪かったわ。その…あなたがなにも考えていないと思ってたから…」
その顔は相変わらずそっぽを向いたままだったが、唯の純粋なまでの気持ちがそこには込められていた
リトはそんな唯に笑いかけると、そっと手を唯の頬に這わせる
「じゃあ今日はお互い様ってことだな?」
「ま、まあ今日はね」
どこかまだギコチない唯の気持ちをほぐす様に、その手を頬から頭へと動かす
「ホントは後もう一個あるんだ、言いたいこと…」
「なんなの?」
リトは唯に顔を近づけていく。二人の距離は数センチほどしか離れていない
「今日のおまえすげーキレイだよ。他の誰よりも…」
「な、なにを言って!だ、だいたい言うのが遅いのよ。そんなことフツー会った時に言うものでしょっ////」
「ゴメン…」
リトはそう言うと唯の唇に自分のを重ねる
最初は驚きと恥ずかしさで体を硬くさせていた唯だったが、次第にリトに合わせるよう口を動かしていく
「んッ…」
リトは一旦唯から口を離すと、その顔を覗き見る
うれしさと恥ずかしさで唯はギュッと目をつむったままだった
「どうしたんだよ?やっぱまだ怒ってるとか?」
唯はリトの胸に顔をうずめながら、首を振る
「違うわ。違う…そうじゃないのそうじゃ…」
必死に首を振る唯の様子にリトは笑いかける
まだまだギコチない唯の表情だったが、その思いにリトはその手をギュッと握り締める
「やっぱ、おまえはおまえのままだな」
「なによそれ?」
手を握りしめ合いながら見つめる二人の空に特大の花火が上がった
あたりを色とりどりの色に染めながら何度も空に上がっていく花火の下で、二人はこの日初めて笑いあう
胸からいろんな思いが消えたせいか、その顔はいつも以上に明るい
赤や青、黄色といった一瞬の光が唯の顔を美しく染める
それはリトでなくても誰もが見とれる美しさだった
ぼーっと見とれるリトに、唯は怪訝な顔をする
「どうしたの?」
「カワイイ…」
リトはそう呟くと唯をギュッと抱きしめた。満点の星空の下抱き合う二人を花火が赤く染める
「ちょ…ちょっと!こんなところでなにを⁄⁄⁄⁄」
リトは腕に力を込めると唯の細い腰に手を回す
「今日うちに来ない?オレ、おまえとこのままずっと一緒にいたいんだ」
つまりそれは自分とハレンチなことをしようと言っているのと同じこと
あまりのストレートなリトに唯は耳まで真っ赤にして顔をうっとりさせるが
慌てて頭を振ると、気を引き締める
「な、なに考えてるのよあなたは!?一週間に一度って決めたでしょ?」
そう言いながらも唯は自分が妙に昂ぶっていることに戸惑う
リトはそんな唯の体から離れると両肩に手を置く
「いいじゃん!今日ぐらいはさ」
思わず首を縦に振りそうになる自分をなんとか踏みとどまらせると、唯はふいっとリトから顔を背ける
「だ…ダメよそんなこと!約束したでしょ?だいたいなによ今日ぐらいはって?」
「えっ!?だって今日は祭りだしさ、おまえとずっと一緒にいたいって思うのは普通だろ?」
「ふ…普通のこと……なの?」
そういえば浴衣を買う際、店員から彼氏がどうとか祭りは特別な日だからなんだと色々言われたことを思い出す
「当たり前だろ!年に何回もない特別な日なんだから、やっぱ特別なヤツと過ごしたいだろ?」
唯の胸がトクンと高鳴る
「特別……なんだ⁄⁄⁄⁄」
「なに言ってんだよ?おまえ以外に誰がいるんだよ?」
自分よりも少し背の高いリトの目を上目遣いで見るように、唯はリトを見つめる
黒い瞳を潤ませ顔を赤くさせる唯の顔を、花火が幾重にも彩る
リトの喉がゴクリと音をたてる
「唯……」
「…ぁ……」
肩に置かれた手に少し力を入れるだけ簡単に引き寄せられた唯は、そのまま導かれる様にリトの唇に自分のを重ねる
「…ッん、ン…うん」
短くて長い、触れ合うだけのキスは、唯から理性を奪っていく
「きょ…今日だけだからね!こんなこと……⁄⁄⁄⁄」
目を逸らし体をそわそわさせる唯を、リトは再び抱きしめた
背中に回された手がもぞもぞと動き、腰周りやお尻のあたりを撫でていく
「も、もうっ!ちょ…結城くん、ダメっ。花火が終わってから!」
腕の中で必死に抵抗をする唯を名残惜しげに離すと、リトは唯の手を取る
「悪い、ちょっとガマンできなくてさ」
いたずらっ子の様に笑うリトをムッとした表情で睨みつけるもどこかうれしそうな唯
その時、今日何度目かの連続打ち上げ花火が舞った
「うわぁ……すげーな」
幾重にも重なる花火が色とりどりに空に舞う様に、リトの口から感嘆の溜め息が漏れる
「ホント…キレイね」
そう横で呟いた唯の横顔をリトはじっと見つめる
明るく微笑む唯の横顔は誰よりもキレイだと感じた

隣通し肩を寄り添いながら座っている二人の空に、何度も花火が上がっていく
満点の星空を赤や青の光の花が幾重にも染める
「すげー……」
感慨深げに呟くリトに唯は心の中だけで笑みを浮かべる
この光景を見るために、この時を一緒に過ごすために今日を選んだのだから
「よかった…」
ぽつりとこぼれた唯の本音は、花火の音にかき消される
花火が終わると静寂が訪れ、今度は真っ暗闇に浮かぶたくさんの星の光が二人を包んだ
夜空に散りばめられた星座の数々
雲ひとつない澄み切った夜空が、星の絵により一層美しさと壮大さを与える
「すげー!!キレイでおっきいなぁ……。きっと神様がいたらもっと大きいんだろうな…」
いきなりそんなことを呟くリトの横顔を唯はまじまじと見つめる
屈託なく笑うリトは純粋な子供の様な顔をしている。それに唯はクスっと笑った
(西連寺さんは知ってるのかしら?こんな結城くんを…。私だけの秘密にしたいな)
「ん?どうしたんだよ?」
一人楽しそうな唯にリトは怪訝な顔をする
「なんでもないわよ」
そっぽを向く唯に、リトの顔はますます眉をひそめる
「ったく、なんなんだよおまえは……」
少しトゲのあるリトに唯は黙って手を重ねる
キュッと握り締めたリトの手は、いつもと同じ様にあったかくて、そして、いつも以上に愛おしく思えた
今日何度も触れ合っていたはずなのに、なんだか久しぶりに繋いだ様な感触に、唯の顔は自然とやわらかくなる
「ホント、今日のおまえどうしたんだよ?」
わけがわからないリトは溜め息を吐きながらも、それでも唯の手を握り返す
唯と同じ強さで、唯と同じ気持ちで
夏の夜の涼しい風が二人を包む
「花火、終わったわね…」
ぽつりと呟いた唯の横顔はいつもと同じ様でいて、どこか悲しそうだった
「また、来年も来たらいいじゃねーか」
リトの言葉に今度は唯がリトの横顔を見つめる
「来年も再来年も次もその次の年も、ずっと、ずっと…オレはおまえとここに来たい!」
「結城くん…」
リトの言葉が思いがすーっと唯の胸に染み込んでいく
「私…私も、私も結城くんとまたここに来たい!ずっと一緒に…ずっとだって…だって…」
言葉がうまく出てこず、思いだけが宙に浮いてしまう
自分の不甲斐なさに唇をギュッと噛み締める唯の頭を、リトはやさしく撫でる
「心配しなくてもおまえの気持ちみんな届いてるよ」
「ホント……?」
思わず俯きかけた顔をリトに向けると、リトと目が合う
じっと見つめてくるだけのリトに、唯の顔はどんどんと曇っていく

「あの……結城…」
「なあ唯、膝枕してくれない?してくれたことないだろ?」
思っても見なかった言葉に、唯はただあっけにとられる
「なあ、頼むよ唯!」
妙に真剣なリトに、唯は慌てて首を横に振る
「そ、そんな恥ずかしいこと嫌よ!それより結城くん、さっきの私の質問に…」
「膝枕してくれたら答えてやるよ!」
唯はしばらく考え込むと、少し乱れていた浴衣を直し自分の膝を手でぽんぽんと叩く
「仕方ないわね…ほら、いいわよ」
少し怒った感じの唯にリトは見えないように笑うと、唯の膝に頭をのせる
浴衣越しに伝わる唯のやわらかい太ももの感触、至近距離から伝わる唯の匂い
にやけた顔を隠そうともせず、リトは唯の膝を頬で撫でるように擦り付ける
「最高…」
思わず出たリトの本音に、唯の顔が険しくなっていく
「結城くんいい加減にして!私ちゃんと膝枕したんだから、今度はあなたが私の約束守りなさい!」
少し顔を赤くしながらも本気ともとれる唯の厳しい口調に、リトもにやけた顔をちゃんと正し、唯に向き直る
「まったく!あなたはいつも…」
「届いてるよ、おまえの気持ち」
ぽつりとこぼれたリトの声に唯は一瞬きょとんとしてしまう
唯はリトの顔を見つめる。その顔は真剣だった。いつもと同じ、それ以上に
知らず知らずのうちに唯はリトの瞳に引き込まれていく
「ちゃ…ちゃんとわかってくれてるの?私のこと…」
「当たり前だろそんなこと!オレ以外におまえのコト、こんなにわかってるヤツいると思うか?」
唯は全力で首を横に振る
そんな人いないと思うし、いてほしくないとも思った
リトの屈託なく笑っている顔が、今はとても頼もしく思える
唯の手がリトの顔へと伸び、頬をやさしく包んでいく
「結城くん…」
手の感触よりも唯の声の響きにリトはくすぐったさを覚える
リトはその声を、言葉を、そして今日の出来事をみんな胸の中に刻み込もうと思った
唯の思いもぬくもりも全て
子供時代の秘密の場所はもう自分だけの場所ではなくなっていた
ここは唯と二人だけの特別な場所
リトの手が唯の手に重ねられる
「また来ような」
「うん」
唯は短く応えると、リトに顔を近づける
一瞬見つめあった二人は、互いの唇を重ね合わせる
二人の甘く熱い吐息だけが、夏の夜の涼しい風の中に満ちていった

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