二人の「勉強会」 その3
(・・・遅いな)
リトは唯の帰りを今か今かと待っていた。
かれこれ5時間ほどになる。
唯の家の近所のおばさんたちにじろじろと見られながらも、リトはこの場を決して動かなかった。
ララと春菜への想いに区切りをつけ、唯に気持ちを伝えるのが今日の目的。いや、ノルマだから。
そのためにリトは美柑にお願いをしたのだが、妹の賢さとしたたかさを読み違えていた。
リトは唯がすぐ家に帰らないように時間を稼いでくれと頼んだだけなのだが、
春菜にも話をつけるのだろうと予測がついた時点で美柑は作戦を思いついたのだ。
唯にはリトの話題を無理なく話させること+映画によってその切なさを増幅してもらう。
リトには身勝手さを反省させる意味も込めて、愛しい人の到着を大いに待たせてやる。
全く、将来有望すぎる小悪魔だ。
「頑張れ、バカ兄貴・・・」
出来の良い妹からの、おしおき込みのエールだった。
唯は家路をゆっくりと歩いていた。
ついさっき僅かに見えたと思えた希望の波はあっという間に引き、また切なさに襲われていた。
体に力が入らない。
脚は鉛のように重く、筆記用具とノート以外何も入っていない鞄も大荷物のように感じていた。
久しぶりに唯を包んでくれた太陽も、その姿を消してしまった。
(あと少し・・・)
次のT字路を右に折れれば家に着く。
そして今日も、涙でシーツを濡らすのだ。
いつまでも引きずっているわけにはいかないことは分かっている。
だけど今日だけは、また唯の心におけるリトの面積が増えてしまった今日だけは、泣かせて欲しかった。
件のT字路を右へ。
そこには、愛しい人が立っていた。
「ゆ、結城くん・・・?」
さきほど目を閉じて見たのと同じ後姿に、思わず声を掛けてしまう。
リトはゆっくりと振り向く。
「おせーよ古手川。待ちくたびれちゃったよ」
困ったような、でも凄く嬉しそうな笑顔だった。
唯の心にいつも柔らかな灯をともし、温めてくれるリトの笑顔。
「ここで・・・何してるの?」
「今言ったじゃん」
リトの口調はまるでいつもと変わらない。
とても一週間会話していない相手に話しかけるようなものではない。
信頼と親しみが篭ったそれ。
「お前を待ってた」
いつもとは逆で、今日は唯が混乱する番だった。
(どうして!?なんで結城君がここに?だってさっき西連寺さんと・・・)
リトは結ばれたはずだ。
リトは表情を引き締めた。
一番大切なものを手に入れるために。
さあ、勝負。
「やっと解けたから。古手川が出した問題。だから、答えに来た」
ハッとした表情になる唯。
そしてそれはすぐに沈痛なものに変わった。
「酷い・・・。酷いよ結城くん。そんな冗談ってないわ。
だってあなたはあの日、わたしに答えを返したじゃない!!」
リトも、自分の気持ちに嘘をつけるような人じゃない。
思いの丈全てを打ち明けた唯に、リトは何も返してはくれなかった。
そしてそれが、答えだったはずだ。
「それは違うんだ。お前の思い込みだよ。俺は答えを返しちゃいない!」
「だったらどうして、あの時追いかけてもくれなかったのよ!!」
「っ」
一週間前には見せなかった、感情の発露。
涙声の唯が放った矢が、リトの心臓を打ち抜いた。
リトがすぐに答えを出せないことはわかっていた。
ララや春菜への思いはそう簡単に整理がつくものではないだろうから。
でも、それでもいいから、せめて自分を意識して欲しかった。
唯も、ララや春菜と同じ土俵に上がりたかったのに。
それなのにリトは、追いかけてさえくれなかった。
リトは大切な人が目の前で傷つくのを、黙って見過ごせるような人じゃない。
だからそれは唯にとって、拒絶されたのと同義だった。
唯の瞳から、堪えていた涙がポロポロと零れ落ちる。
あの時唯は正解が欲しかったわけではなかった。
ただ、真剣に問題に取り組むことを伝えてやるだけでよかった。
リトはまたしても打ちひしがれ、自分の鈍さを呪った。
しかし、今日のリトはこんなことで負けるわけにはいかない。
なぜならリトの信じている正解はもう、この手にあるのだから。
「古手川・・・、ごめん。本当に悪かった」
唯の決壊した堤防は、次から次へと透明な水を零していた。
「俺は、逃げてたんだ」
リトは言葉を続ける。
「今のみんなとの生活が、お前との関係が心地よすぎてさ。ずっと逃げてた。
ララからも、西連寺からも、・・・お前からも、そして自分自身からも」
一つ唾を飲み込む。
心臓が飛び出してきそうなほど暴れている。
「ずっと逃げてたから、真っ直ぐなお前が眩しかった。
お前が俺のこと想ってくれてるって分かったとき、ほんとにうれしかったんだ」
唯は涙が流れ落ちるのもそのままに、じっとリトを見つめている。
魅入られそうなほど、純粋で無垢な瞳で。
「俺は古手川のことを、間違いなく大切に想ってた。あの時にはもう、お前が好きだった。
でも、いろんな人に対するいろんな気持ちがグチャグチャに絡みあってて・・・。
それなのにお前に答えを求められたとき、完璧な答えをだそうとしたんだ。できもしないのにさ・・・」
そこで自分の弱さを思い知らされて。
そしてリトの体は動かなくなってしまったのだった。
大きく息を吐き出して、一息ついた。
唯を見る。真っ直ぐに。
唯もじっとリトを見返してくる。
その瞳が、続きを要求していた。
「俺は、お前のことが好きだ」
初球はズバッとストレートを投じる。
唯の瞳は見開かれることはなく、頬も赤く染まりはしない。
しかし、微かに息を呑んだのがわかった。
まずは1ストライク。
「あれっ、今の驚くか悦ぶかして欲しいとこなんだけど・・・」
リトが少し茶化すように言うと、唯は頬を膨らませた。
2球目のボール球の変化球は、見事に見逃されたようだ。
「お前のことが、一番好きだ」
「嘘!」
3球目のストレートに、唯は始めてスウィングしてきた。
「嘘じゃない」
「だったら証明してみせて!」
ここで捕らえられるわけにはいかない。
そのために、ララと春菜を傷つけてきたのだから。
「ララも西連寺も、俺にとって大切な人だ。それはこれからも変わらない。
二人には幸せになってほしいと思ってる」
「・・・」
とりあえず聞く耳は持ってくれた。
リトの言葉に嘘がないことも、唯なら見抜いているだろう。
3球目は目論見どおりファウルだ。これで、追い込んだ。
4球目・・・。勝負球―――
全身の力を集中させ、目を閉じ唯の笑顔だけを心に描く。
「俺が幸せにしたいのはお前なんだよ!
俺以外の奴がお前を幸せにするなんて冗談じゃない!
お前を幸せにすることは、俺にしかできない!俺じゃなきゃ嫌だ!」
渾身の力を込めた、ど真ん中ストレート。
まるでガキっぽい、青臭い言葉。
しかしリトが考え抜いた末に、自分の意思で唯を選んだことを示す言葉だ。
唯の見開かれた両の瞳から、ツーッと涙が伝い落ちていった。
リトは微笑みかけると、ゆっくりと唯の元へと近づいていった。
手を伸ばせば、触れられる距離まで。
「そういえば、まだ聞いてなかったよな」
唯は微かに身を震わせながらリトを見上げる。
「古手川は、俺のこと好き?」
ボッ、とマッチをする音でもしたんじゃないかと思うほどに、唯の顔が一瞬で朱に染まる。
「な、なにを今更・・・」
唯はそっぽを向いてしまう。
それを見てリトの顔がつい綻ぶ。
(ああ、この感じだ・・・)
たまらなく心地よいやり取り。
「いいから、聞かせて」
リトは別にからかっているわけではない。真剣そのものだ。
「・・・嫌いよ」
唯はそう言うが、声には甘えるような響きが混ざっていた。
それにリトはもう既に、唯を三振に打ち取っているのだ。
勝負の行方は見えていた。
「古手川は意地っ張りな上に天の邪鬼だからな、一度言われたくらいじゃ信用できない」
「結城君なんて・・・嫌いなんだから・・・」
そう言いながら体を倒し、リトの胸にもたれかかって来る唯。
その口から何とかして好きという言葉が聞きたいのだが、どうやら愛しさの方が先に限界に達してしまったようだ。
両手で唯の周りに円を作る。
「古手川、ギュってしていい?」
そう聞きながら半径を小さくしていく。
「もうしてるじゃ、あっ・・・」
彼女が言い終わる前に抱きしめてしまった。
信じられないくらいに柔らかい身体、滑らかな黒髪の感触、女の子特有の甘い匂いと唯の温かな体温。
あまりの幸福に、涙が出てしまいそうだった。
「結城くん・・・結城くんっ」
腕の中で震えながら名をよんでくれる、何よりも愛しい存在。
「もう絶対に泣かさない・・・。嬉し涙ならたくさん流させてやるけどな・・・」
耳元でそっと囁くと、唯はリトの制服のジャケットのポケット辺りを掴んでいた手を腰に回してしがみついてくる。
「・・・わたしで、ホントにいいの・・・?」
「お前がいい。お前じゃなきゃダメなんだ・・・」
リトはより一層の想いを込めて唯を抱きしめ続けた。
どれくらいそうしていたのだろうか。
確かな熱を依然として感じていながらも、リトはようやく冷静さを取り戻した。
そしてここが、住宅が密集している路上であることを思い出す。
時刻は6時くらいだろうか、今まで人が通らなかったのが不思議なくらいだった。
肌寒さも増してきているようで、体温の高い唯は冷えてしまうかもしれない。
リトは上半身を少しそらして唯と距離をとり、その肩を軽く押した。
「んっ!」
しかし唯はそうされたのが不満なのか、リトの腰に回した両手をガッチリとロックしてしまう。
「あの、古手川?」
唯は耳をリトの胸にピッタリとくっつけ、顔を上げてはくれない。
「それ、凄く可愛いんだけどさ・・・とりあえずどこか暖かいとこに・・・」
と、そこまで言ったところで気づいた。
(暖かいとこって言ったって・・・どこ行こう)
美柑は何も問題ないが、ララがいるのだから結城家へは行けない。
いきなり唯の家に上げてくれなんていうのも気が引けるが、かといってホテルなどは問題外だ。
お金ないし、それ以前に誘えないし。
リトが思案していると、考え事をしているのが気になったのか、
それとも可愛いといわれて嬉しかったのか、いつの間にか唯が顔を上げてくれていた。
まるで小動物のようなか弱い表情で見上げられると、心臓に非常に悪い。
「・・・結城くん、まだ帰らないで・・・?」
ドクンドクン。動脈が高速で動き出す。
(可愛すぎだっつーの!つか、古手川の上目遣いって反則・・・)
この表情を見るためならば、いくら叱責を受けようと理不尽に無視されようと安いものだ。
それにやっと想いが通じあったのだから、一緒にいたい気持ちはリトだって同じだった。
「帰らないよ・・・当たり前だろ」
潤んだ瞳で見上げてくる唯を直視できず、おまけにちょっと上ずった声でリトは返答する。
「じゃあ、わたしの部屋に来て・・・?」
ポソポソと、視線を下げながら消え入りそうな声で。
そしてリトをようやく解放すると、今度はジャケットの裾を引っ張って歩き出した。
まさかの展開に、リトは少しよろめきながらついていく。
(古手川から誘ってくれるなんて・・・)
皮膚にぶつかる肌寒い風を押し返すくらいの熱い風が、体中に広がっていくのを感じていた。
「お、お邪魔します・・・」
真っ暗で明らかに誰もいないのにガチガチに緊張して古手川家の敷居を跨ぐリト。
「ふふっ。結城君、右手と右足同時に出てるわよ」
ほら、やっぱりからかわれた。
「お茶を沸かしてくるから先に行ってて。廊下の突き当りを左に行った部屋だから」
そう言って唯はリビングを抜けてキッチンへ向かう。
(えっと、確かお茶葉は・・・)
と探そうとしたが、いつものような両親のお客さんではなく相手はリトだ。緑茶やほうじ茶はイメージとちょっと違う。
とりあえずやかんを火にかけ、唯はリトの好みを考える。
(・・・そういえば、いつだったかレモンティーを飲んでたわね)
ティーカップを用意し、キッチンカウンターの棚からレモンティーの茶葉を取り出してスプーンで一杯入れる。レモンを薄くスライスしたら後はお湯が沸くのを待つだけだ。
「・・・ハァ」
手を動かす必要がなくなると、ため息が漏れてしまう。
唯は自分に降って沸いた幸福に身を震わせた。
リトの告白の一字一句を、しっかりと覚えている。
「結城君・・・」
抱きしめられた感触が、身体から離れない。今だってリトに触れていたい。
やがてやかんから湯気が噴出してきた。
唯は大急ぎでカップにお湯を注ぐとレモンを落とし、お盆に載せて足早にリビングを出る。
カップは程よく揺れているのでちょうど良い蒸らしになるかもしれない。
急いで部屋へ、と思ったらリトは廊下の突き当たりで突っ立っていた。
「結城君・・・?どうかした・・・?」
この一週間は掃除をした記憶がないので、足の踏み場もないほど部屋が汚かったとか・・・
唯は慌てて自室を覗き込むが、そこはいつもどおりだった。自分で言うのもなんだが、よく整頓されている。
「なんか・・・緊張しちゃってさ・・・」
頭を掻きながらリトが告げる。
ララの部屋は女の子の部屋というより特殊空間といったほうが正しいし、春菜の部屋は犬化騒動で覚えちゃいない。
リトが知っている女の子の部屋は妹の部屋くらいのものだった。
そんなリトが、初めて訪れた彼女の部屋(それもきっちりと整頓されている)に先に入って待つとういうのはかなり抵抗があるのかもしれない。
「全く、そんなことでどうするのよ・・・。これからこういうこといくらでもあるんだから・・・」
唯はリトに一秒でも早く触れたくて慌ててきたことが急に恥ずかしくなって、目を閉じてぶつぶつと文句を言う。
「古手川、それって・・・」
「は・・・早くあけてよ。わたし、両手ふさがってるんだから」
自分で墓穴を掘っているので、拗ねた様な声しか出せない。
「お、おう。わり・・・」
二人はようやく部屋の中へ入った。
予想通りというか、唯の部屋はシンプルにまとめられていた。
優しい木の色合いと、白系が半々くらいで程よくマッチしている。
机は小学生の頃に買ってもらったものだろうか、今の唯には少し小さい気がするが
傷もほこりも全くなく、毎日大切に使ってきたのだろうことがよくわかる。
フローリングの床にはクリーム色のカーペットが敷かれ、カーテンの色もお揃いだ。
一人部屋なのに立派なクロゼットがあり、その隣には木製のスタンドミラー。
普段は制服をビシッと着こなしている(スカートの丈は短い気もするが)唯だが、洋服を集めるのが好きなのだろうか。
その代わりというのも何だが、テレビもパソコンもオーディオ機器もない部屋には娯楽と結びつくものは本棚くらいしかない。
しかもマンガはほとんどなく、大抵がリトには馴染みのない参考書と小説だった。
大きいものだけに注目していくと殺風景な部屋だといえなくもないが、そこは女の子だ。
ところどころに可愛らしいぬいぐるみやクッションが置かれ、カラフルな壁掛け時計やカレンダーとともに部屋に彩を与えていた。
(すげえ、女の子の部屋ってこんななんだ・・・)
リトはキョロキョロと唯の部屋を眺めてしまった。
初めて訪れた唯の部屋で、デビュー戦のサラブレッドのようになってしまう。
「結城君、悪いんだけどそこのテーブル開いてくれる?」
「あ、ああ」
唯の声で我に返ったリトは、部屋の隅にきちんと折りたたまれて置かれていたそれを用意してやる。
「ありがとう」
唯はしゃがんでから持ってきたお盆をその上に置くと、カップを蒸らしてから30センチほどの距離を開けて並べる。
その間もリトは突っ立ったままだ。
「座ったら?」
「うん・・・」
とは言うものの、リトは自分が位置すべき場所が分からずにいる。
すると唯が何かに気づいたようだ。
「ごめんなさい。わたしったら座布団も出さずに。それに何かお茶菓子も・・・」
まるで高級旅館の若女将のように、洗練されていて無駄がない動きで立ち上がると部屋を出て行こうとする唯。
その腕をリトがそっと掴んだ。
「そんなのはいいから、ここにいてくれ」
普段のリトよりも幾分低い声が、唯の三半規管をダイレクトに揺さぶった。
それほど強く引っ張られたわけでもないのに、お盆を落としてしまう。
ドキドキドキドキ。
唯は頬を紅潮させて俯いてしまう。
そんな様を見せられるとリトもまた緊張してきてしまった。
「座らないとな・・・」
「・・・そうね」
なんなんだこの会話・・・。
「床に座っちゃってもいいか・・・?」
「あっ、じゃあベッドの上に・・・」
ビクッ!
ベッドという単語に激しく反応してしまうリト。いくらなんでも分かりやすすぎである。
「へ、変な勘違いしないでよねっ」
ビシッと人差し指を突きつけられてしまった。
「わ、分かってるよ」
まあリトからすれば、期待するなってのが無理な話で。
唯は掛け布団とタオルケットを素早くたたむと枕とは反対側にまとめて、座るスペースを作ってくれる。
(すげえ、俺今古手川のベッドに座ってる・・・)
いちいち感動してしまうリト。
唯はお盆を拾い上げると、ちょこんとリトの隣に腰を下ろす。
互いを意識せずにはいられなかった。喉が渇いてしょうがない。
自然、目の前のティーカップに救いを求めることになる。
「あ、旨い・・・コレ」
レモンティーを一口飲んだ、リトの感想。
「ほ、ほんと?」
自分は口をつけずにリトの様子を窺っていた唯は、胸に抱えているお盆をキュッと抱きしめてとても嬉しそうだ。
「ああ。これって茶葉使ってるんだろ?やっぱティーパックより旨い気がするな」
表情が一瞬で曇る。
「・・・まあ、そんなのは茶葉のお陰だものね」
急に刺々しくなった唯の声に気づきもせず、レモンティーに夢中なリト。
(まったく、女心って物が全然分かってないんだから!)
そう簡単にこの鈍さは直りはしません。
「飲まないのか?」
かなり熱かったはずなのに、あっという間に飲み干してしまったらしい。
「・・・飲むわよ」
ジト目で数秒リトを睨んだ後、カップを口元へと運ぶ唯。
フーッ、フーッ・・・
さくらんぼのような唇を窄めて冷ましている。唯は猫舌なのだ。
そんな様子をリトはチラチラと横目で眺めている。
さっさと飲んでしまったので手持ち無沙汰らしい。
ここが自宅なら間違いなく残ったレモンにかぶりついているが、唯に怒られそうなので避けている。
今も鼓動はあがりっぱなし、緊張で間がもたない。
今日だけで心臓が過労死するんじゃないだろうか。
これ以上負担をかけないためにも、この後の展開をシミュレートしておくべきだろう。
(古手川の方から部屋に入れてくれたって事は・・・)
唯も望んでくれているのかもしれない。
もしそうならば、やはり男の自分から行動に移すべきだろう。
(だけど、そうじゃない可能性もあるよな)
ただ少しでも一緒にいたいという、その気持ちだけかもしれない。
唯からすれば、まさか今日リトと想いが通じ合うなどとは夢にも思っていなかっただろう。
心の準備だってあるだろうし、それに・・・
(俺もそれだけでも満足かも・・・)
ただ唯が隣にいてくれるだけで、今だって言いようのない幸福感に包まれているのだから。
それに二人はまだ互いのことをあまり知らない。
他愛のない話をするだけだって、二人にとって貴重な財産となる。
とにかく、どうなるにしろ―――
(古手川の望むように。望んでくれるなら何でもしてあげよう)
リトはそう誓った。だって今日は、唯の全てを受け入れるつもりで来たのだから。
コトッという音がして、唯がレモンティーを飲み干したことが分かった。
沈黙のカーテンが閉まる。
二人とも次の言葉を捜して逡巡しているような、そんな時間。
そしてリトが意を決した瞬間、カーテンを開けたのは唯の方だった。
「もっとそっちに行ってもいい・・・?」
二人の距離は現在も50センチと離れていない。つまりそれは、唯が肌の触れる距離を要求したということ。
「もちろん」
拒む理由など何もない。
するとその僅かな距離を、コンマ数秒すら惜しむかのようにしてつめてきた。
そして体を反転させると、リトの右肩に背を預けてくる。
その声も表情も行動も、全てがリトの全身に甘い電気を走らせる。
今すぐ背後から抱きしめて、唇を奪って、めちゃくちゃにしてしまいたい・・・。
必死に理性を働かせなければ、ついさっきの誓いすら吹き飛んでしまいそうだった。
リトは目を閉じ静かに深呼吸をしながら暫し間をとる。唯に何かを話し出す気配はない。
無言でいるのも悪くないが、それならばもう少しちゃんとした体勢で触れ合っていたい。
「古手川は・・・この後どうしたい・・・?」
唯の身体がピクリと震える。
「・・・結城君は?」
少し怒ったような声だが、意図的にそうした声を出しているような感じがする。
「俺は、古手川の望むようにしたい」
「・・・そんなの、ズルイわよ・・・」
確かにリトはずるい。
はっきりと望んでいるものがあるのにそれを自分からは口にしないと、そう言っているのだから。
しかし唯は、リトの言葉の響きの前に強く怒ることを封じられてしまった。
まるで全てを許されるような、愛するものへの奥底からの愛情が乗り移ったような響き、とでもいうのだろうか。
吹き飛びそうな理性の中でもそんな声を出せることが、リトの唯への気持ちを物語っていた。
電子機器が何もない部屋は、沈黙が訪れると互いの呼吸音しか聞こえない。
シーツが微かに擦れる音さえやけに大きく聞こえる。
(結城君を・・・もっと感じたい)
リトに愛されたい。
それは理性を超越したところにある、女としての本能のようなものかもしれない。
だけど、それを言葉にすることができない。
プライドが邪魔しているなんてことではない。
ただ純粋に、リトの方から求めて欲しいのだ。
いつだって先に行動に移してきたのは唯で、煮え切らないリトに感情を空回りさせてきたのだから。
唯は指先をモジモジとこすり合わせる。何とかしてリトに言わせる方法はないものか。
そしてようやくそれに思い至る。
リトは唯の望むようにすると宣言しているのだから、簡単なことだった。
同じように返せばいいのだ。
「わたしは・・・結城君の好きなようにして欲しい」
「なっ!?」
リトとしてはその台詞は想像の範疇になかった。
唯が肩越しに見返してくる。その瞳は期待と不安で揺れている。
「あなたはわたしを自分の意思で選んでくれたんでしょ・・・?」
キュッと両手で純白のシーツを掴みながら、唯は言葉を続ける。
「今もまだ少し不安なの・・・。さっきのあなたの言葉、胸の奥にしっかりと残ってる。
・・・でもあなたは、ララさんと一緒に暮らしてる・・・」
そこで少しハッとした表情になって唯は慌てて言葉を繋ぐ。
「ララさんにいなくなってほしいとかじゃないの。わたしだってララさんが好き。
そして、結城君の家が彼女の居場所。だから、それに不満があるわけじゃなくて・・・」
唯は少し間をとり、ゆっくりと呼吸する。
リトは半身の体勢のまま、そんな彼女から目を離せないでいた。
「わたしはあなたをもっと知りたいの。何を考えてるの?何を思ってるの?
受け入れられるだけなんて嫌。あなたの意思で、わたしに触れて欲しい、わたしに教えて欲しいの・・・」
瞳を潤ませ必死な表情で心の内をさらしてくる唯。
その不純物が入り込むことなど絶対にできない想いは、リトの受身を打ち砕いた。
自分の意思に、本能の声に従えばいい。
心の底から唯を渇望している、それに。
シーツを掴んでいる唯の両手に己のそれを重ねて、美しい水面を湛えた双眸をしっかりと見つめて。
「古手川が欲しい。古手川に俺を刻み付けたい・・・」
唯の目尻から堪え切れなくなった真珠のような涙が零れ落ちる。
「いいかな?」
ちょっと不安そうな笑顔でリトが訊いてくる。
断れるわけなどないのに。
唯は小さくコクッと頷くとリトにしがみつき、リトの肩に顎をのせる格好で泣いている。
リトは唯の細い肩に左腕を回すと、残ったほうの手で頭を優しくなでてやる。
暫くの間鼻をすすっていた唯だが、やがてゆっくりと身体を離す。
リト曰く”反則的な”上目遣いとともに、その唇が開花を目前にしたモモの花のようにうっすらと開いていた。
(魅了されるって、こういうことなんだな・・・)
リトはそのあまりの美しさに眩暈とともに息苦しささえ覚えたが、唯が待っているのだ。
左腕を唯の右肩へ。右手は唯の左手と指を絡めて。
意を決して、ゆっくりと顔を近づけていく。
「や、やっぱり待って!」
唯からストップがかかる。一週間前と違い、その声からは慌てと照れの響きが読み取れた。
リトは何とも不思議な精神状態だった。
さっきまで理性は吹き飛びそうだったのに、今も頭の中が蕩けそうなほどなのに、
それをどこか冷静に、客観的に受け止めている自分がいる。そんな状態。
それはリトにとって何よりも優先すべきは唯だからだろう。
”唯優先主義”とでも言えばいいだろうか。
だからお預けを食らったというのに比較的穏やかに返事ができる。
「どした?」
視線は2つ並んでテーブルに置かれたカップへと逃がしながら。
「名前で呼んでよ・・・」
純粋なお願いは、リトをしっかりと見つめながら。
不満が元になっているお願いは、そっぽを向きながら。
素直じゃないような、素直なような・・・。
ある意味唯の真骨頂かもしれない。
「唯・・・」
リトは恥ずかしさを覚えながらも、すぐに愛しい少女の名を呼んでやる。
「な、なんだよ。望みどおりにしたのに、不満なのか?」
唯はその美しい眉根を下げて、絡めたリトの右手をつねってきた。
「・・・今、軽かった」
(・・・いや、何か分からないけど恥ずかしいんだってば)
好きな人の呼び方を慣れたものから変えるのは、結構恥ずかしいものだ。
「やり直し!」
有無を言わさぬ声の響き。
(・・・俺、なんでちょっと嬉しいんだろ)
めんどくさいと思ってしまいそうなものだが、なぜか表情が緩みそうになってしまう。
リトにだけ与えられる、受け入れることを許された、唯のわがまま。
リトは緩みかけた表情を戻す。
(きっと名前だけを言うから恥ずかしいんだ、うん)
一つ深呼吸をして、しっかりと想いを込めて。
「好きだよ、唯・・・」
いや、そっちの方が恥ずかしいだろ。
しかし今度は抜群の効果があったようだ。
唯は満足げな吐息を漏らすと、ツンと顎を少し持ち上げて目を閉じる。
それが当然だといわんばかりに。
とっている行動はわがままなお嬢様のようだが、そこに高飛車さを感じさせないのが凄い。
姉のような包容力だけでなく、優しく守ってあげたくなる何かを彼女は持っている。
静かに、ゆっくりとリトの唇が唯のそれに重なっていった。
「ん・・・」
そっと触れるだけの、だけど万感の想いを込めたキス。
少しでも動けば離れてしまいそうなキスなのに、相手が自分の中に侵入してくるようにさえ感じていた。
(唯の唇、めちゃくちゃ柔らかい・・・)
その柔らかさが、想いを確かめ合えた嬉しさが、リトの腕に込められる力を強くさせる。
数十秒ほどたっただろうか。
どちらからともなく唇が離れる瞬間、唯の両手に加わる力が強まった。
リトは敏感にそれを察知すると素早く息を吸い、余韻を残す間もなくもう一度唯にキスをする。
今度は短く、何度も何度も触れる。
「・・・っふ、ん・・・ん」
リトはどうしても唯が見たくて薄く目を開けてみる。
キュッと目を瞑り、必死に応えてくれる唯がたまらなく可愛い。
唯の力が抜けてきたので、絡めていた右手をそっと離すと腕、肘を経由して肩に到達する。
そしてゆっくりと、唯を純白の凪の上に横たえていく。もちろんその間も唇でつながったままだった。
「ぁ・・・はぁ・・・」
短くて長いキスを解いて、二人は見つめあう。もう頭の中は、互いで埋め尽くされている。
リトは唯の制服のブレザーにそっと手を掛ける。
「じ、自分でする・・・から」
身体を少し起こして、唯は恥ずかしそうに身をよじる。
しかしリトは優しく微笑みながらそれを手で制すと、3つのボタンを外しにかかる。
彩南の制服は近所でも可愛いと評判だ。
そんなものを、リトの主観的(まあ客観的にもだろうけど)超絶美少女にして最愛の人が身に着けているのだ。
自分の手で脱がしたくなるのが男の性というものだろう。
ボタンを外すと唯は窓の方へ視線を向けながらブレザーから腕を抜いてくれる。
さらに唯にばんざいする体勢になってもらってベストも脱がす。
リトは唯を再び横たえた。
次に色はロリエに近いだろうか、グリーンのリボンを外してやる。
猿山に借りたAVではリボンだけ残していたのを見た覚えがあるが、それはまたの機会に。
上半身は下着を除けばブラウスのみになり、リトはどうしても胸へと視線が行ってしまう。
唯の呼吸に合わせて微かに上下する様が、まるで誘っているかのようだった。
「・・・唯、その・・・胸さわってもいいか・・・?」
唯はそっぽを向いたままだが、その横顔が”いちいち訊くな”と語っていた。
「ごめん」
リトは唯と会話しつつ左手をその黒髪に、右手を胸へと伸ばしていった。
触れた瞬間、唯の瞳が僅かに細められた。
左手は毛先の方へと上から下に、右手は円を描くようにそっと動かしてみる。
(すげえ・・・全然抵抗がないや)
美しい髪は指に引っかかる気配すらなく、その胸は直までに2つの隔たりがあるというのに硬さを感じさせない。
サラサラとフワフワのコンビネーションに、リトの興奮は高まるばかりだった。
「んっ・・・くすぐったいよぅ」
通常比・糖度500%な唯の声は、リトの侵攻を早めることになる。
「これも脱がすな」
リトはブラウスに手を掛ける。
「あ、待って。まだ心の準備が・・・」
いくら奥手なリトでも、ここで止まれる筈もない。
今度はあっという間にボタンを外すとそれをはだけさせる。
「やっ」
身を隠すように両手で自分の肩を抱き、横向きになってしまう唯。
リトは一瞬見えた白さに目を眩まされていた。
在り来たりだが、それを表現するのに最も的確なのは、眩しい白い肌。
リトが突然呆けてしまったので、唯は少し不安になる。
「・・・あ、の・・・」
唯の声に、ようやくリトは正気を取り戻す。
意識を失っている場合ではない。
1ミリたりとも唯を不安にさせないようにしなくては。
「ごめん、あまりにも綺麗で見とれてて、さ」
「そ、そんなこと・・・」
こちらを見るためにひねっていた首を唯は竦める。
「そんなことあるよ。・・・なぁ、もっと見せて欲しい」
「ば、ばか・・・」
(そんな風にお願いされたら、断れないじゃない・・・)
まだ肩を抱いたままではあるが、唯は身体の向きを戻したくれた。
リトが両肘を掴むと、唯は抵抗しなかった。
「下着も外していい?」
「待って、外す・・・」
今度は待ってやる、というかリトは外し方がわからないので待つしかない。
唯は身体を倒した状態のまま後ろ手で器用にホックを外す。
いよいよだ、そう考えると思わずゴクリと咽喉が鳴ってしまう。
唯はリトのお腹の辺りに視線を置きながら、ゆっくりとブラを取り去る。
もちろんというか、二つのふくらみは腕で隠されている。
リトはそのコントラストに言葉を失っていた。
文字にすれば矛盾している、白と白のコントラスト。
バックグラウンドであるシーツと、透き通るような、神々しささえ感じさせてくれる唯の肌とは、
同じ白でも絶妙な対比をリトに見せてくれた。
(すごく綺麗だ・・・)
頭の中で自分の声が響いていた。
人はあまりにも感動が大きすぎると、声を体外に発することができなくなる。
またしても呆然としてしまったリトだが、唯を不安にさすまいと声を掛けようとする。
が、今度は唯もリトが見とれて声が出ないことに気づいていたようだ。
「結城君も脱いで・・・?」
言われてようやく自分が何一つ脱いでいないことを思い出す。
ブレザーを放り投げ、ネクタイを緩めると輪を解きもせず首から抜いてしまう。
「もう、結城君ったら。制服がかわいそうよ」
こんな状況でも几帳面な唯だ。リトのネクタイを拾って片手で解いていく。
(両手使ってくれていいのにな)
そんなことを思いながらYシャツも脱ぐ。
「今余計なこと考えたでしょ」
ジト目で睨まれてしまう。
唯にからかうための計算など微塵もないのはリトも分かる。
まったくもって鋭いコだ。
「ホントにハレンチなんだから・・・」
そう言いながらも、唯は睨んでいた目を逸らしていく。
リトはどちらかといえば小柄なほうだが、度重なるトラブルで鍛えられたのか程よく筋肉がついていた。
胸板はやや薄いがそれは贅肉が全くないためで、制服時には感じなかった逞しささえ覚えさせられる。
表面的には情けなくても心の底は優しくて頼りになる、リトらしい肉体。
初めて見る兄以外の男の身体を、唯は直視できなかった。
「脱いだぞ」
そう言われても、唯にはどうすることもできない。
再び主導権はリトへと移る。
リトは体温を直接感じたくて、体重を掛けないようにそっと唯に覆いかぶさる。
両肘で自分を支えながら、目を閉じて唯に口付ける。
すると唯が両手をリトの首に回してきた。
リトは自分を支えていた右手を唯の背に回して、もう少しだけ身体を落とす。
二人の身体がそっと触れあった。
「んっ・・・あ、・・・ちゅ・・・はぁ」
唯の唇から甘い吐息が漏れる。
それはキスのせいだけではない。
(結城君のカラダ、ちょっと硬くて・・・あったかい)
自分の身体もかなり熱くなっているはずなのに、リトはとても温かかった。
ふたりは唇を離すと見つめ合う。
もう一度唇の甘さを味わうのも悪くないが、そろそろ別の甘さが欲しい。
リトが頭の位置を下げていこうとすると、唯がギュっと抑え込んできた。
目を持ち上げて表情を窺うと、拗ねたような困ったような表情。
男のリトにはさっぱり分からないが、性器よりも胸を見られるほうが恥ずかしいという女の子もいるらしいから、唯も恥ずかしいのだろう。
「んむ―――」
リトは唯の首筋に口付けた。
ビクンと唯の身体が少し跳ねる。
細かく触れるだけでなく、少し強めに吸い付いてみる。
「あっ・・・、そんなの・・・」
口付けたまま鎖骨へと移動し、そこにも同じようにしてみる。
くすぐったいのか気持ちいいのか、唯は身動ぎしている。
リトの首に回されていたはずの手は、頭を撫でる様な位置に移動していた。
顔を上げると、白く美しい胸が目に飛び込んできた。
思わず息を呑む。
唯の胸はサイドは綺麗な丸みを帯びていて、頂点に向かうにつれて少し鋭く尖っていた。
十分なふくらみがあるのに、重力とは無縁であるかのようで張りがありそうだ。
乳輪は小さめで、色は鮮やかなピンクをした唇よりもさらに少し薄い。
神の意思が創ったとしか思えないような、まさに理想的なおっぱいだ。
「あっ、結城くん見ちゃ嫌っ」
唯はすぐに身体をよじって隠そうとするが、リトは先程口付けた鎖骨の辺りを押さえてしまう。
「どうして?こんなにきれいなのに」
「そんなこといわれたって・・・恥ずかしいものは恥ずかしいんだもん」
唯はあまりの恥ずかしさで口調まで変わってしまっていた。
上気した表情と少女の色香。
リトの配線のいくつかがショートしたのは、当然のことだった。
確認をとりもせずに唯のおっぱいにしゃぶりつく。
「ん、はむ・・ちゅ、ちゅ」
もう片方の乳房は、当然ながら揉みしだいていく。
掌に小さな突起の感触。
「ふぇっ!?あ、ち、ちょっと結城く・・・」
リトのあまりの勢いに困惑が生じたが、すぐに快感に取って代わられてしまう。
「あんっ・・・結城く、やさしく・・・はんっ!」
その声は熱とともに憂いを帯び、閉じられた瞳の目じりには涙が滲んでいる。
一体世界中の誰が、古手川唯のこんな声を、姿を想像できるだろうか。
セックスが特別なのはただ気持ちいいからだけじゃない。
愛する人が自分だけに与えてくれる、秘密の宝石達。
リトの興奮は高まるばかりだった。
乳輪を下から舐め上げ、先端の突起を音を立てて啜り、おっぱいをこね回した。
それは甘い味がした。
おっぱいはリトの手の動きに合わせて自在に形を変えたが、一瞬手を離すとすぐに元の形に戻る。
指が沈んでいきそうなほど柔らかいのに、少し力を強めに加えるとその弾力で押し返してきた。
リトがイジワルするたびに唯の身体は撓り、ビクッと震えた。
その味と感触と反応にリトはすっかり虜になり、赤ん坊のように戯れていた。
暫くするとようやく満足したのかリトが口を離した。
唯のおっぱいは唾液でべとべとになってしまっていた。
唯はまだ荒い息をしていたが、リトが顔を上げると乱れた呼吸のまま一気にまくしたてた。
「結城君の、、ヘンタイ!!いくら、ハレンチなことしてもいいって、言ったからって、
あんなとこ舐めたり、吸ったりするなんて!信じられない!」
(・・・はい?)
あまりの唯の剣幕にリトはキョトンとしてしまう。
確かにいきなり乳首にむしゃぶりついて弄り倒したのは少しやりすぎた感もあるけれど。
(エッチのときにおっぱいにキスするのって、普通じゃないのか?)
とりあえず弁明しないとここで終わりにされかねない。
それが唯の意思であっても、ここまできて終了ではリトからしたらあんまりというものだ。
「あの・・・さ、いきなりしたのは悪かったよ。ごめんな。
でも、その・・・こういうことってみんなしてると思うんだけど・・・」
「そんなこと言ったって騙されないわよ!」
唯はいつの間に呼吸を整えたのか、しっかりとした口調だ。
(そういや、古手川ってこういうことの知識どれくらいあるんだろ・・・)
リトだって実際にするのは初めてだが、そこは高校生の男だから本やらDVDやらである程度の知識はある。
しかし唯は?
そりゃあ女の子だって興味はあるだろうし、男よりは難しいのかもしれないがそういう物を手に入れることだってできるはず。
ただ、唯がエッチな本やDVDを手に入れる構図というものがリトには思い浮かばない。
(もしかして全く知らないんじゃ・・・)
そう思ったが、一から説明なんてできないし、どうしたものか・・・。
「今のは、えっと・・・準備なんだよ。俺たちが、なんつーか、結ばれるための」
「・・・だからってあんな風に・・・」
(いやらしい音を立てて・・・焦ったように夢中になって・・・)
さっきまでのリトを思い出し、唯の顔がまた一段と熱を帯びる。
「それに唯、めちゃくちゃ可愛かったし・・・」
リトが負けず劣らずの赤い顔をしてボソッと呟く。
「顔なんて見てなかったくせに・・・」
そうは言うが、唯は少し嬉しそうだ。
「・・・見てたよ。それに、可愛いって顔だけのことじゃないだろ?」
唯の喘ぎ声、敏感な反応。
これからしばらくは寝付くのに時間がかかりそうだ。
しかし、今のままではいつまで経っても眠れそうにない。
「唯・・・その、したい・・・」
耳まで真っ赤になる唯。
リトはじっと唯を見つめてくる。
既にもの凄く恥ずかしいことをしたけれど、この後のことは正直少し怖い。
でも、唯もリトにして欲しい。
素肌で触れ合うことでその気持ちはより強くなっていた。
「後ろ向いてて・・・」
「えっ!?・・・あ、ああ」
唯の言葉の意味を理解して後ろを向くリト。
シュルッと言う衣擦れの音にまた心臓が高鳴る。
(っと、俺も脱がないと)
ズボンのベルトをバックル部分だけはずして脱ぎ、トランクスも脱いで窮屈にしていた一物を開放してやる。
唯が声を掛けてくれるまで、一秒経つのがものすごく長く感じた。
「いいわよ。振り返っても・・・」
ようやくお許しが出てリトは振り返る。
唯は今度は胸を隠してはいなかった。
右足の脛の内側を左膝に当てるような体勢で横たわっていた。
滑らか。
身に纏ったものが何一つなくなった唯の印象がそれだった。
男のように角張った箇所はどこにもなく、透明感に満ちていた。
鼓動がいつの間にかゆっくりになっていた。
しかし胸を打つ強さが尋常ではない。ドキドキじゃない、バクバクだ。
あまりの美しさに、唯が触れてはいけないもののように思えてしまう。
「結城くん・・・。わたしに準備させて?」
唯が心情を見透かしたかのようにリトを導いてくれた。
唯からのお願いなら、リトは絶対に断らない。
「・・・綺麗だ、すごく」
リトは心の底からそう囁く。
唯は喉を優しく撫でられた猫のように目を細め、幸せそうに身を震わせてくれた。
「じゃあ、触るな・・・」
リトは唯の下腹部へと手を伸ばす。
そこは内腿でピッタリと塞がれていた。
「唯、ちょっと脚広げてくれ」
唯は無言のまま頬をさらに赤らめ、抗議するような視線を向けてくる。
準備させてと自分から言っておきながら、何と理不尽でそして愛おしい表情だろう。
「そうしてると、準備させてあげられないよ?」
困ったように微笑みながら、優しく言ってやる。
「絶対に・・・見ない?」
胸の方が恥ずかしいとか、そういう問題じゃなかったらしい。
「うーん、最終的にはちょっとは見ないと・・・かな」
「ちゃんとやさしく、してくれる?」
この問いには即答できる。
「約束する。絶対にやさしくするから」
リトが真剣な表情で晒す心の内は、いつだって唯の心を解きほぐす魔法だ。
その視線が、声色が、極上の安心感を与えてくれる。
それが唯にはものすごく嬉しいのに、ほんの少し悔しくもある。
だから、ほんの少しだけ脚を開いた。もちろん視線はあさっての方向に向けて。
「唯ってほんとに可愛いな」
そう言ってリトは頬にキスを落とした。
唯は驚いて視線を戻した。
「こ、こら。こんなときに何言ってるのよ・・・」
「世間一般ではこんなときだからこそ言うもんだぞ?」
「もう、知らないっ」
今度は身体ごと横向きになってしまった。
(あっちゃー)
何やってるんだか。
纏うものがなくなっても、唯の肢体がものすごく魅力的でも、このやりとりだけはやめられないらしい。
(だって、いちいち唯が可愛いからなぁ・・・)
身体だけでなく、性格だってリトにとって最高なのだ。
リトは一人顔を綻ばせるが、頭の中ではどうやって機嫌を直してもらおうかと考えていた。
と、考える必要などなかった。
リトは唯に倣って横向きに寝る。
「ちょっと身体浮かせてくれるか?」
もちろん本気で怒っているわけではないので、唯はすぐに言われたとおりにしてくれた。
リトは左手をその隙間にもぐりこませる。
「もういいよ」
唯が身体を下ろすと、すぐに背後から右手を回して抱きしめた。
「結城くん!?」
「何そんなに驚いてるんだよ。準備させるって約束だろ?」
唯は見られるのを恥ずかしがっているのだから、こんなに都合の良い体勢もないはずだ。
リトはすべすべの肌の感触を愉しみながら、唯の秘部へ右手を下ろしていった。
「あっ・・・」
触れた瞬間、唯が微かに声を漏らす。
そこは温かくて、もう潤ってきていた。
(ちゃんと感じてくれてたんだ・・・)
リトはそれだけで嬉しい気持ちになる。その瞬間、唯が左手を握り締めてきてまたもや嬉しくなる。
「痛かったり怖かったりしたらすぐに言ってな・・・」
唯がコクッと首を振ったのを確認すると、ピッタリと閉じている淫裂を指の腹で上からそっと撫でてみる。
初めてだろうから、強い刺激を与えないように、慎重に。
「平気?」
唯がリトの手を握っているほうの手を軽く二度振った。
大丈夫、ということらしい。
「よかった」
ほっとするが、閉じている状態のそれを解してあげなければいけないのはリトにも分かる。
今度は中心に指を当てたまま、円を描くように動かしてみる。
唯の唇からは熱っぽい息が漏れていた。
リトはほんの少しだけ中指を侵入させてみる。
すると唯がまたも結んでいる左手を振った。
大丈夫なようなので、ゆっくりとそれを左右に動かし膣壁を少しずつ広げていく。
まだ入り口の段階だが、唯の身体は緊張と弛緩とを短時間で繰り返していた。
リトは指を少し立てて、もう少し奥へと入れてみる。
「あ、いたっ」
「ご、ごめん!痛かった?」
唯はふるふると首を振るが、声に出てしまっているのだから痛くなかったはずがない。
目を閉じてもう一度唯に心の中で謝る。
すると唯の髪の匂いが鼻腔をくすぐった。
高貴な花のような品があって、優しい香り。それが先走る気持ちを窘めてくれる。
(やさしく、やさしく・・・)
自分に言い聞かせながら、時間をかけて唯の中をそーっと掻き回す。
「・・・あ、んは・・・」
膣奥から愛液とクチュッというくぐもった音が漏れてきて、だいぶほぐれてきた感じがする。
指ももちろんだが、背中から感じるリトの心臓の音や温もりが、唯の身体を開かせていた。
(そろそろいいかな・・・)
指を抜く瞬間、まるで名残惜しむかのように唯にキュッと締め付けられた。
中指は透明な液体でヌメヌメと輝いていた。
その白い柔肌もほんのりと朱に染まっていた。