リトと唯 第五話 小さくたって… 前編
「頼むよ唯…」
唯はほっぺたを膨らますと、ムッとリトを睨む
「だ、だってこんなカッコ、家族になんて話ちたらいいのよッ!!?」
「そうだよなァ…」
リトは頭を抱えた。家の人に宇宙人の仕業でこうなった!なんて言っても信じてくれるはずがない
途方に暮れるリトの腕の中から、ララが身を乗り出す
「じゃー唯、ウチに来るといいよ!今日はお泊りしよ♪」
リトに抱っこされて、その声はうれしそうに弾んでいる
その光景に唯の肩がぷるぷると震える
「ララさん!ゆーきくんから離れなさい!」
「えー!でも抱っこしてくれたのはリトだよ?」
ララを指差しながら唯は、じっとリトを見つめた。その目はゆらゆらと揺れている
「ホント?」
「か、階段上るの大変そーだったから、見かねてさ」
どこかギコチない笑みを浮かべるリトの態度に唯はキュッと手を握り締める
「うぅ…。唯にもそんなコトちてくれたことないのに……」
「えーっと……。唯?」
リトを睨む唯の目にうるうると涙が溢れ出す
「唯も…唯もちてもらってないのに……あーん、ゆーきくんが唯にイジワルするー!!」
リトは慌ててララを下に下ろすと、急いで唯を抱きしめる
「してない!してない!ッてか、そんな事するワケねーだろ?」
「うぅ…ひっく…」
リトは唯の頭を撫でながら必死に言い聞かせる
「誰もお前の事、イジワルなんてしてないよ!だから泣くなって!な?」
リトを見つめる大きな黒い目からは、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ出している
「ひッく…ホン…ト?」
「ああ!ウソなんてつかないよ。オレはいつだって唯の味方だから」
「う…ぅ…信じる…」
唯は小さくコクンとうなずいた
その様子を黙って見ていたララは、リトの横から顔を覗かせる
「唯、今日一緒にお泊りできないの?」
少し、寂しそうなララの顔
唯は言葉に詰まるように目を彷徨わせると、助けを求めるようにリトの制服の袖を握る
リトを見つめる唯の顔は不安でいっぱいだ。リトは、そんな唯の頭に手を置くとやさしく笑いかける
「お前の好きなようにすればいいよ。心配すんなって!オレがちゃんとそばにいてやるから」
唯はリトの腕に自分の小さな腕を絡ませると、ギュッとリトに抱きついた
「ゆーきくんと離れるのイヤなの!だからえっと…唯、ゆーきくんのおウチに行きたい」
「おかえりーって……え?」
帰ってきたリトを出迎えた美柑は、目の前の状況に口をぽかんとさせる
「た、ただいま」
苦笑いを浮かべるリトの隣には、小さくなったララ、そしてリトに抱っこされた唯
「……どーゆうコト?またララさんの発明?」
一人頭を混乱させている美柑に、とりあえず事の次第を説明するリトだった
「…ふ~ん。便利ってゆーか、迷惑ってゆーか…」
「あ!美柑も小さくなりたいの?」
明るくとんでもない事を言い出すララに、美柑は慌てて首を横に振る
「こ、これ以上、小さくなるなんてホント勘弁してッ。でも…まー、大きくなるケムリなら考えても…」
どこかまんざらでもない顔でララと話す美柑
その横で、唯は一人ソファーに座りながら、足をプラプラさせている
リトが部屋に戻ってからすでに一時間あまり
唯のほっぺは、すっかり膨れてしまっている
しきりに体をそわそわさせては、時計や部屋の入口を気にする唯
少しすると、ガチャリと扉を開けてリトが入ってくる
「あっ」
と、小さく呟いた唯は、ピョンとソファーから飛び下りた
「ゆーきくん、なにちてたの!?」
「へ?なにって服着替えてたんだよ」
ぶっきらぼうに応えるリトに唯のほっぺはますます膨れる
「遅い!」
「ああ。猿山と電話してたからな」
「うぅ…唯がいるのに…」
リトは唯の話しを遮るように美柑へと話しを向ける
「なあ、今日の夕メシなに?」
「えっと、今日は、唯さんいるから唯さんの好きなのにしようって思ってるんだけど…」
「ふ~ん」
リトはそう応えると、そのまま台所に向かった
その素っ気ない態度に、唯は目を大きくさせると、うるるると涙を滲ませる
そんな唯とリトを交合に見ながら、美柑は慌ててリトの後を追った
「ちょっとリト!」
「なんだよ?」
美柑はリトの顔をじっと見つめると、溜め息を吐いた
「だから何だよ!?」
「……リトあんた、唯さんのコト心配じゃないの?」
きょとんとするリトに美柑はますます溜め息を深くする
「あんたなんにもわかってないんだ!いい?唯さんは今、体が小さくなって、心も子供に戻ってるんだよ?
不安なの!怖いの!あんたのコト頼ってるの!そのあんたが、唯さんの気持ちに気付かなくてどーするのよ!!?」
かなりご立腹な美柑にリトはなにも言い返せない
リトはそっとリビングを覗き見ると 、ララが一生懸命、唯をあやしていた
「ひっく…ゆーき、くんが…唯のコトぐすん…無視する…ひっく」
「よしよし、そんなコトないよ!リトならすぐ唯のそばに来てくれるよ」
そう言いながら、ララは何度も唯の頭を撫でる
それでもぽろぽろとこぼれる涙は止らない
そんな二人の姿がリトの胸にグサリと刺さる
後ろから聞こえてくる美柑の悪態を聞き流しながら、リトは急いで二人のそばに寄った
「あっリト」
リトはララと入れ替わると膝を屈め、唯と顔を合わせる
「ゴメンな唯!オレ、全然お前の気持ちに気付いてやれなくて」
唯はまだ泣いている。いつもの強気な態度が嘘の様に今は弱々しく儚げだ
「オレ、お前の事ちゃんと見てなかったな。ホントにゴメンな唯。これからはずっとお前と一緒にいるから」
「ひっく……ホ、ホント…に?」
その小さな小さな涙声に、リトは唯の頬を両手で包みながら力強く応える
「ホントだよ!ずっとお前といる!!」
「い…いつも?ずっと?ホン…ホント、に?」
リトの目をじっと見つめながら、確かめる様に何度も呟く唯
「いつも一緒にいるよ!だから、泣くのはもうやめような。目が真っ赤になっちゃうぞ」
リトはそう言うと指で唯の涙を拭っていく
「…う…うん」
唯は小さくうなずくと、何か言いたげにリトの目をじっと見つめる
「ん?まだ何かあるのか?」
「…ゆーきくん、女のコをあんまり泣ちたらダメなんだからね!」
「ゴ…ゴメン」
返す言葉のないリトは素直に謝るしかなかった
そして、時刻は7時を廻り、四人は食卓を囲んでいた
今日は唯の好きなメニューという事で、テーブルの上にはご馳走がいっぱいだ
ただし、そのほとんどの料理が子供サイズのミニになっている
「おいしー」
顔をニコニコさせてオムライスを口に運ぶ唯は、幸せそのものだ
そして、その隣にはどこかうんざりしたリト
さっきからしきりに溜め息を吐いてばかりだ
「もー勘弁してくれ…」
「リト。あんたが悪いんだからね!」
自業自得と言わんばかりにフンっと鼻を鳴らす美柑に、リトはますます肩を落とした
あの後、リトは唯から正座させられた上、散々お説教を受けていた
小さくなっても唯は唯だなァと心の中で言いながら、
やっと解放されたリトを待っていたのは美柑からのお願いだった
急に人数が増えたため、冷蔵庫の中身が足りないというのだ
リトは快く返事すると、買い物に行く仕度を始めた
その後をついてくる唯とララ
「ん?すぐ帰ってくるからウチで待ってろよ」
「やだ!ゆーきくんと一緒にいる!」
「私も!」
じっと見上げてくる二人の小さな眼差しに、リトは仕方ないなァと仕度をするように促した
しばらく玄関で待っていると、階段を下りてくる小さな足音にリトとララが振り返る
「お!」
「わ~」
二人の感嘆の声に恥ずかしそうに体をもじもじさせる唯
「私のちいさい時の服がまだあってよかった」
唯の隣にはどこか自慢気な美柑が立っている
「すご~い!美柑の服ピッタリだよ唯!」
唯はチラチラとリトを見ては、そわそわと体を揺らしている
その顔はどこかほんのりと赤い
「リト」
美柑のなにか言いたげな視線にリトは慌てて口を開く
「え!ああ…えっと、似合ってるよ唯」
「あ…ありがと」
顔を赤く染めながら、急いでリトの隣を通り抜けると、いそいそとクツを履く唯
「じゃあ、後はよろしくね3人共!特にリト、あんたが一番ちゃーんとしなきゃダメよ!」
「わかってるって!」
それでも心配なのか、腰に手を当てて溜め息を吐く美柑を尻目に3人の準備は整った
「それじゃー、しゅっぱ~つ!!」
元気に手を上げるララを先頭に、3人の買い物が始まった
買い物と言っても、歩いて30分もかからない近所のデパート売り場に行くだけ
リトは左手で唯と、右手でララと手を繋ぎながら、二人が転ばないようゆっくりと歩いていた
夕暮れの中、いつも通い慣れた道が、今日は何だか新鮮で懐かしく感じる
(…そういや昔、こうやって美柑と手を繋いで、買い物行ってたっけなー)
リトの胸には、昔懐かしい思い出が甦っていた
そんなリトの思考を妨げるようにララがリトの手を引っ張る
「ねぇねぇ、リト」
「なんだよ?」
ララは満面の笑みを浮かべながら、リトを見上げている
「私、食べたいモノがあるんだけど……リトいい?」
「まァ、カネ余ったらな」
そんな二人のやりとりに、唯はつい声を大きくさせてしまう
「ちょっとララさん!ゆーきくんに迷惑かけちゃダメでしょ」
「む~でもリトがいいって…」
「ゆーきくんがそーゆっても迷惑かけちゃダメなのっ」
ララはリトに助けてもらおうと、その手をブンブン振る
「リトいいよね?ね?」
「ちょ…痛い!痛いって!わかった!わかったからやめろって!!」
その甘さというか、やさしさに、唯は頬をムッと膨らませた
「唯、お前も食べたい物とかあったら言っていいぞ。好きだろ?ケーキとか甘いもの」
「え?」
キョトンとする唯に、リトは屈託ない笑顔を見せる
「ゆ…唯は…」
(あれ?前にもこんなコトあったような…)
いつもとは違う風景が、いつも以上に離れた身長が、いつもより大きいリトの手が、
唯にある人を、幼い頃の思い出を思い起こさせる
『はぁ?またケーキかよ!お前好きだなー。そーゆう甘いやつ』
そんな風に文句を言いながら、いつも一番大きいイチゴの乗ったケーキを譲ってくれた
お兄ちゃん――――
唯はリトの手をキュッと強く握り締めた
「ん?何だよ?」
「な、なんでもないの!」
唯はそう言うと、そのまま黙って下を向いてしまう
(唯のヤツどーしたんだ?)
リトの疑問をよそに3人は目的の場所に到着した
デパートの中は、夕方の買い物客で溢れかえっていた
「ゆーきくん、ララさん、はぐれたりちたらダメだからね!
もしはぐれたら、ちゃんと店員さんにゆわないとダメだからね!」
「は~い」
(なんか、遠足に来た先生と生徒みたいだな)
元気に手を上げて応えるララと、一人うんうんと頷く唯の姿にそう感じるリト
三人は買い物カゴを手に、美柑から渡されたメモを見ながら店内を回って行く
早速、お菓子コーナーに走って行こうとするララ
リトの手伝いをしようと野菜に手を伸ばすも、小さくなっているため手が届かない唯
一生懸命背伸びをするも、バランスを崩して尻餅を付いてしまう
とたんに涙ぐむ唯を必死にあやすリト
溢れかえる人の波の中、3人は順調に買い物を進めていた。ここまでは────
「じゃ、次は…」
「あ!私、コレ取ってくる」
そう言うと一人走り出すララ
「おいララ!?…ったくあいつは…。唯、オレあいつ連れてくるからココにいろよ?」
「え…うん……」
お菓子の箱を手に聞いているのかいないのか曖昧な返事をする唯
どうやら、どれを選ぶか真剣に悩んでいる様だ
そんな唯を残してリトはララ追いかけて行った
お菓子コーナーの棚を前に、どれにしようか悩み続ける事、数分
「あ…れ…?」
気がつくといつの間にか二人の姿がない事に気付く唯
「ゆーきくん?ララさん?」
周りを見渡しても二人の姿はない
「もー、はぐれたらダメってゆったのに!まったく!どーちて唯のゆーこと聞けないのっ」
唯は一人怒り出すと、二人を探すため店内を歩き始める
けれど、しばらく歩いても二人は見つからない。
どころか、思った以上に広い店内に、唯自身自分がどこにいるのかわからなくなってきていた
「あれ…?」
気持ちは次第に焦り始める
小さくなっているため、いつも以上に広く感じる店内。見渡せば知らない大人達ばかり
唯は、いつの間にか走り出していた
「ララさん、ゆーきくんどこ?ゆーきくん…ララさん…」
立ち止まってはキョロキョロと頭を巡らせ、めいっぱい背伸びをしては周りを見ることの繰り返し
じっとしてなんていられなかった
寂しさと不安で押しつぶされそうな気持ちをなんとか奮い立たせていたのは、一つの約束
「ゆーきくんがいつも一緒にいてくれるって…」
唯は心の中で何度も二人の名前を呼び続ける
二人に会いたい。ゆーきくんに会いたいゆーきくんに――――
『これからはずっとお前と一緒にいるから』
家でそう言って頭を撫でてくれた
『ホントだよ!ずっとお前といる!!』
何度も確かめたら、何度もそう言って応えてくれた
『いつも一緒にいるよ!』
そう言って約束してくれた
「ゆーきくん…ふぇ…ひっく、どこぉ…?唯を一人にちないで…ゆーきくん」
走り続けて痛くなった足は自然と止まってしまう
「ひっく…ゆーきくん……ゆーき、くん……」
一度こぼれた涙は止めることはできない
孤独と寂しさが唯の心を塗りつぶしていった
――約束したのに――
「ゆーきくんが…いない…見つからないの…」
――私を一人にしないって約束したのに――
「ゆーき、くんがひっく…唯を一人にする…ゆーきくんが唯を…」
――約束。結城くんが約束してくれたから私は――
「一緒に、いりゅってゆったのに……あーん!!!」
声を上げて泣き出す唯に周囲の客達も反応しだす
けれど、今の唯にそんなコトを気にしていられる余裕はなかった
「わーん、ゆーきくん、ゆーきくんどこーーっ!!」
その時、パニックになった唯の胸に、小さい頃の思い出が過ぎる
そう小さい頃、こんな風に迷子になった時は絶対に―――――
『ったく、ホントにお前は泣き虫だな!』『いつまで泣いてんだよ?唯』
『ほら、ぐずぐずしてたら置いてくぞ!』『オレのそばから離れんなよ!』
『もう大丈夫だぞ唯。オレがついてるだろ?』
「あ…ぅ…お…にいちゃん…ぐす、ゆーきく…ひっくおにいちゃん…」
ぐちゃぐちゃになった気持ちは、リトと遊の姿を重ね合わせていく
一緒にいたのがリトなのか、遊なのか、唯はわからなくなっていた
「おにいちゃんどこぉ…唯、一人にちたらやだァ…」
そんな唯の顔に影が掛かる
「何してんの?」
「ひっぐ…へ?」
「ララ、そっちいたか?」
「ううん。リトは?」
リトは首を横に振ると、走ってきたララと合流する
「唯…どこにいったのかな?」
「ったく……はぐれちゃダメって言ったのお前だろ」
リトはもう一度手分けして探すようにララに伝えると、再び走り出した
「唯…どこにいるんだよ……」
スラリと背の高いその面影に唯は見覚えがあった。家で毎日見ている顔だ
「ひっく…ぐす…お、おにい…ちゃん……?」
小さな声でそう呟く唯。その視線に合わせるように、遊は膝を屈める
「こんなとこで、子供が一人で何やってんの?」
「え…ぁ…え…っと…」
(ど、どーちよう……おにいちゃんだ…。こんな姿なんて説明ちたら…)
目に涙をいっぱい溜めながら、おろおろする唯を不思議そうに見つめる遊
「なんだよ…。別にオレ、キミの事イジメてるつもりじゃないんだけどな」
少し困ったように笑う遊に、唯はますますどうしていいのかわからなくなってしまう
(ど、どーちよう……どーちたら……うぅ…)
「クソ!何やってんだよオレ…」
家を出るとき美柑から言われた言葉が、頭を過ぎる
『特にリト、あんたが一番ちゃーんとしなきゃダメよ!』
わかってる、わかってたはずなのに――――
ずっと一緒にいるって約束したのに――――
「もし…もしあいつに何かあったらオレ…」
不安と後悔の中、エスカレーターを降りたその時、リトの目にある光景が飛び込んでくる
「まーとりあえず、お母さん探しに行くか」
遊は立ち上げると、唯の頭に手を置こうとした
その時――――
「やめろ!!!そのコから離れろっ!!」
「え?」
「あぁー?」
リトは全力で走ってくると、二人の間に割り込む
「大丈夫か?」
「え…う、うん」
唯を後ろに庇いながら、キッと遊を睨みつける
(って、でけー……。おまけに強そうだし…)
(…こいつ確か唯の…)
リトはギュッと手を握り締めると、後ろ手で唯の頭を撫でた
大丈夫だよ。心配するなと言うように
リトの手は震えていた。震える足でそれでも自分を守ろうとするその顔を、唯はじっと見上げた
「このコに何の用だよ?」
「別に」
二人の様子にニヤニヤと笑みを浮かべる遊は、どこか楽しそうだ
「別にって…さっき何かしようとしてたじゃねーか!」
「ち、違うの!そーじゃないの!唯のお話ち聞いて」
「え?」
ズボンを引っ張りながら小さな声で話す唯にリトは振り返った
「違うって何が?」
「だから、違うの!そのひとは、唯のコト助けてくれようとちてたの…」
「え…」
唯から事情を聞いたリトは、びっくりして慌てて遊に謝った
申し訳なさそうにペコリと頭を下げるリト
遊はリトに近づくとニッと口元に笑みを浮かべる
「いいって!それよりお前、結城リトだろ?」
「え…?」
初対面の人にいきなり名前を呼ばれ訳がわからないリト
そんなリトの頭から爪先まで遊はジロジロと見る
遊がリトを見たのは一度だけ。唯の手を引いて街中を走って逃げている時だ
(ふ~ん…。あの時は、チラっとしか顔見てねーけど、こいつが唯が毎日言ってる…)
一人ニヤニヤしている兄の顔を、唯はリトの影に隠れながら心配そうに見ていた
(…おにいちゃん、ヘンなコトゆったらダメだからね…)
「あ、あのオレとどこかで…」
遊に事情を聞こうとした時、店の反対側から元気な声が響いてくる
「リト~、唯見つか…」
慌てて走ってきたララは、状況がわからず目をぱちぱちさせる
「どーしたの?」
「えーっと…何て言えばいいか…」
説明に困るリトの傍らを抜けて、遊はララの前に屈みこむ
「あ!初めまして♪リトの友達の人」
「おう」
にっこりと微笑むララに、愛想よく笑いかける遊
「すげーカワイイ子じゃん!お前の妹か?」
突然話しをフられたリトは説明に困ってしまい
その間にララの自己紹介が始まってしまう
「私、ララ=サタリン=デビルークって言うの!お兄さんは?」
「ララ…サタリン何だって?って外人か!?この子?」
ララの素性に怪訝な顔をする遊に、リトは慌ててフォローをいれる
「え、えっとこ、このコは外国のコで、今ウチにホームステイに来てるってゆーか…」
「ふ~ん…」
遊はそれだけ言うと、ララの頭に手を置いてよしよしと撫でる
「オレの妹もこれだけ素直で明るいヤツだったら可愛かったのになァ
どこを間違えたら、あんなカタイだけのうるさいヤツになっちまうのか…」
本気でうんざりした口調で話す遊に、唯は顔をムッとさせる
「まー、ララちゃんの可愛さには誰も敵わないだろうけどなァ」
「エヘヘ」
くすぐったそうに笑うララと笑みを交わす遊
その時、遊の傍らに派手目の服を着た女が現れる
「どーしたの?ゆうちゃん」
「ん?何でもねーよ」
遊はもう一度ララの頭を撫でると、立ち上がる
「じゃ、またな。結城くんとララちゃんとそれから…」
遊の視線から逃げるようにリトの後ろに隠れる唯
その仕草に遊はクスっと笑う
(うぅ…おにいちゃん早くいってよ)
遊はリトと唯に意味深な視線を向けると、彼女を連れて立ち去った
「何だったんだ?あの人…」
リトの隣では、元気にバイバイと手を振るララと、心から安堵の溜め息を吐く唯
「ゆうちゃん、さっきの子達なんなの?知ってるの?」
「ん?まーちょっとな…」
そう呟くと遊は後ろを振り返った
後ろでは早速、中々こなかったリトに怒る唯とそれにうなだれるリトの姿
「…ったく、なんでそーなってんのか知らねーけど、ちゃんと守ってもらってるじゃん!唯のヤツ」
そんな二人の様子に遊はクスっと笑った
あの後、唯から散々怒られたリトは、ご機嫌取りの意味も込めて、唯の食べたい物や欲しい物を見て回っていた
その中に、いつの間にかララの分も含まれている事に、リトは悲しい溜め息を吐く
「ねェ、唯」
「ん?」
アイスクリームを食べながら唯が振り返る
「さっきのコトまだ怒ってるの?」
「え…べ、別に…」
唯は前を歩くリトの背中にチラリと視線をやる
正直、リトへは怒りよりも、ごめんなさいの気持ちの方が大きい
だって、あんなにはっきり注意してって言ったのは自分だし、それにはぐれたのは自分のせいだし
(来るの遅かったけど…)
先頭を歩くリトは、心なしかしょんぼりとしている
そんなリトの姿に、唯の小さな胸の中は、ぐるぐると回っていた
少しリトにきつく言いすぎてしまった事
はぐれた時、リトではなく遊の事を考えてしまった事への負い目
唯の中の遊の存在は大きい。それは小さい頃からの影響が濃かった
小さい時、いつも一緒にいて守ってくれてたのは遊
いつも文句を言っていたけれど、最後は自分のそばにいてくれて、そしていつも味方になってくれて
(おにいちゃんは大切だけど…)
だけど、唯の中のリトの存在はそれ以上だ
(…唯、ホントはゆーきくんに来てほちかったのになァ)
唯は足を速めると、リトの隣に並ぶ
「ん?何だよ?他に欲しい物とか…」
アイスクリームを舐めながら、黙ってリトの手を握る唯
「どしたんだ?」
「…別に」
ぼそっと話す唯は、ツンとリトから顔を背ける
けれど、リトの手を握りしめるその手は離さない
「まだ怒ってんのか?」
「……」
唯は少しん~っと難しい顔をすると、リトにアイスクリームをすっと差し出した
「は、半分ずつ」
「え?」
「ゆーきくんと半分こ。い、一緒に食べたい…から」
不安そうに、心配そうに、リトを見つめるその目は泳いでいる
「…じゃ、半分こな」
リトはクスっと笑うと、アイスクリームを一口舐めた
「お!うまいじゃん!ココのアイス」
「うん」
リトの反応に唯に笑顔がこぼれる
「ゴメンな唯」
「…も、もういいの!許ちてあげる」
唯はリトから顔をふいっと背けるとアイスクリームを一口舐める
「そのかわり…」
「そのかわり?」
「ゆ、唯のコトもう離ちたらダメだからね!ゼッタイ、ゼッタイ、離ちたらダメだからね!!」
リトへの想いの強さを表すように、その手に力をこめる唯
「も、もち離ちちゃったらその時は、ゆーきくんが一番に唯のところに来なきゃダメだからね!」
「唯…」
「ゼッタイダメなんだから…。だってだって唯は、ゆーきくんの彼女なんだから」
ほっぺをサクラ色に染めて、少し誇らしげにそう呟く唯
リトは返事の意味を込めて唯の頭を撫でようとした時、二人から離れていたララが戻って来た
その両手に抱えきれないほどのお菓子やケーキを持って
「お前…それ……」
「えへへ、向こうにあったの!おいしそーでしょ♪」
笑顔でそう話すララに、リトの目は点になる
「あ…おいちそう」
隣で同じように顔をほころばせる唯の様子に、溜め息を吐きながら全部買う覚悟を決めるリトだった
そして時間は戻り、夕食後
「食べ切れなかった物はみんなウチに持って帰ったらいいからね」
「ありがとー」
お菓子や、ケーキをタッパに入れる美柑の横で、唯は顔をほころばせている
唯がケーキや甘い物に目がない事は、付き合う前からわかっていたとは言え
今日、スッカラカンになった財布を手に、改めてその事実が身に染みたリトだった
(普段は全然食わねークセして、なんでケーキとかはあんなに食うんだよ…)
女の子の不思議に一人心の中で愚痴っているリトを、後ろからララが抱きしめる
「リト、今日は一緒におフロ入ろ♪」
とたんに唯の顔つきが変わる
「ちょ、ちょっと待て!何言ってたんだお前…」
「ゆーきくん、どーゆうコト?」
いつの間にかリトのそばに来ている唯の目はすでに険しい
「こ、これは…」
「ゆーきくん、唯のいないところでララさんとおフロに入ってるの?」
「違…そんなワケねーだろ!今日はララのヤツが…」
慌てて言い訳を始めるリトの様子に、美柑は仕方ないと言った顔でフォローを入れる
「リトはいつも、ちゃーんと一人でおフロに入ってるから心配しないで!唯さん」
それでも唯の気持ちは治まらない
「信じろって!って、お前もなんか言えよ!ララ」
「む~…今日は小さくなったから入れると思ったのになー…」
残念そうに呟くララにリトは勘弁してくれと肩を落とした
「まーまー、で、今日のおフロどーするの?」
「え…」
「まさかこんな小さい子を一人で入れるワケないよねェ……リト?」
意味深な視線を投げかける美柑に、リトは唯を見つめた
「えっと……一緒に入る?」
「へ…」
リトを見上げたまま固まる唯
(ゆ、ゆーきくんとおフロに入る…)
体を密着させたり、泡だらけになって洗いっこしたり
唯の頭の中に、よからぬ妄想が飛び交う
「唯さん、リトに体とか洗ってもらうといいよ」
「ねェ、美柑もリトとおフロに入ってたの?」
思ってもいなかったララの言葉に、今度は美柑が石の様に固まる
「昔な。あ~…そーいや、最後にこいつとフロ入ったのっていつだったけっなァ」
遠い目で思い出そうとするリトの口を、美柑は慌てて塞ごうとする
「ちょ…ちょっとリト!?」
「……確か小4の冬だっけ?怖いテレビ見たから一人で入れない~とか言って」
「リトッ!!!?」
へ~♪っと顔を輝かせるララに、勝手な事を言い出すリトに怒る美柑
そんな3人の様子を唯はぼーっと見ていた
(美柑さんが、ゆーきくんとおフロに入ってたのは4年生の時…。唯は…)
小さい時はよく遊とお風呂に入っていた唯
その時はよく頭を洗ってくれたり、おフロに入りながら遊んでくれたりしてたっけ
唯も遠い昔を思い出していた
チラリとリトの顔を見る
(唯の髪、ゆーきくんあらってくれるかな?唯、ゆーきくんに…)
リトに褒められた自慢の髪
(いっしょに入るのはハレンチなコトだけど…)
だけどリトを想う気持ちが上回る
(やっぱり唯、ゆーきくんとおフロ入りたい)
唯はリトの隣にぴったりとくっ付いた
「ん?何だよ?」
「……」
赤くなっている顔を見られないように、リトと目を合わせない唯
そんな唯の頭にリトはポンと手を置いた
「一緒にフロ入る?」
「へっ」
思わずリトの顔をまじまじと見つめる唯
その様子にリトはクスクス笑った
(あの時のアイツとおんなじだな)
怖いとも一緒に入ってとも言わず、ただずっと自分の手を握り締めていた小さな妹の手
「一緒にはいろっか?」
「う…うん。で、でも今日だけ、今日だけとくべちゅだからね!」
リトは笑いながら唯の髪をくしゃくしゃと撫でた
結局、唯とリト、ララと美柑が一緒に入る事に決まったのだが――――
(さ、さっきはあんなコトゆったけど…)
脱衣所でボタンを外しながら、唯はいろいろ考えていた
(ゆーきくんとおフロ…ゆーきくんとおフロ…)
考えれば考えるほど、顔がぽわぁ~っと熱くなる
(やっぱり恥ずかちい…)
服を脱ぐ手を止めると、隣にいるリトをじっと睨む唯
「な、何?」
じーっと見つめるその視線だけで、何が言いたいのか痛いほどわかってしまう
「…ゆーきくん、唯の裸見たらダメだからね!ちゃんとわかってるの!?」
「わ、わかってるって!」
それでもむぅ~っと睨む唯にリトは気のない笑みを浮かべるしかない
「…さきに唯が入るから、ゆーきくんは、唯がいいってゆーまで入っちゃダメだからね!」
「はいはい。わかったわかった」
唯は服を脱ぐとタオルで体を隠しながら風呂場に入っていった
中に入る時、後ろを振り返り、釘を刺す様にリトを睨む唯
「一緒に入りたいとか、見ちゃダメとか…ったく、オレにどーしろっつーんだよ」
くもりガラスの向こうに見える小さな体にリトは溜め息を吐くしかなかった
それからすこしして
「ゆーきくん入ってきて」
(自分のウチのフロなのに何やってんだオレ…)
心の中で愚痴りながらも遠慮がちに中に入るリト
唯は湯舟の中でリトに背中を向けながら待っている
「熱くないか?」
「す、少ちだけ…」
お湯のせいか唯の頬はほんのりと赤くなっている
「オレも一緒に入っていい?」
唯は何も言わずコクンと首を振る
リトが湯舟の中に入ってくるのを感じると、ますます隅に行き体を隠す唯
「別にそんなに隠れる事ないだろ?」
「な、なにゆってるの!?こんなのホントはハレンチなコトなんだからね!」
「オレとフロ入るのそんなに嫌?」
「そ、そんなコト…」
唯は目を彷徨わせると、ゆっくりとリトに体を向ける
「ホ、ホントはこんなコトちないんだから!きょ、今日はとくべちゅなだけだからね!」
「わかってるよ!けど、たまにはこーやって一緒にフロ入るのもいいだろ?」
「…うぅ…と、ときどきだったら許ちてあげる」
赤くなった顔を隠すように俯きながらぼそぼそ話す唯
そんな唯の仕草にリトはクスクスと笑う
「どーちて笑うの?」
「ゴメンゴメン。お前が可愛くてさ」
その言葉に唯の顔はリンゴの様に赤くなる
「カ…カ…カワ……」
唯は突然その場で立ち上げると、逃げるように浴槽から出ようとする
「どーしたんだ?」
「…か、体あらうだけだからほっといて!」
なんだか少し怒ってる様子な唯。けれど、イスに座って鏡に写るその顔は真っ赤になっていて
鏡に映るリトと目が合うと、唯は慌てたように目をそらした
(もしかして照れてんのか?)
リトはそんな唯の後姿に笑みを深くした
一方、鏡の前の唯は大変な事になっていた
(もぉ…ゆーきくんは…)
リトの「カワイイ」とか「好き」といった言葉にとても弱い唯
それは小さくなってもまったく変わらず、頭の中は悶々となっていた
とりあえず頭を洗おうとシャンプーを手に取る唯
リトはその後姿に心配そうに尋ねる
「一人でできるか?」
「へ、へーき!」
鏡の中で当然と頷くと、唯は手にシャンプーを付け始める
(ホントに大丈夫か…)
唯が毎日髪の手入れをがんばっている事も、それにこだわっている事も、リトはみんな知っている
だけど、それを最初から出来たはずはなくて────
「あれ…?」
頭に付けたシャンプーを洗い落とそうと蛇口に手を伸ばすも、どこにあるのかわからない
目を瞑っている状態と、いつもと勝手が違うシャワーの位置に、唯は一人あたふたしてしまう
少しするとシャワーから出たお湯が唯の体を濡らした
「ほら、これでいいのか?」
耳元で聞こえるリトの声と、突然のシャワーに唯はびっくりしてしまう
「ゆ、ゆーきくん!?」
「やっぱ一人じゃムリだろ?オレが洗ってやるよ」
リトは手にトリートメントを付けると、唯の頭に馴染ませていく
「あ、あ…」
「けどオレ、いつもどーやってお前が髪洗ってるか知らないから、ちゃんと教えてくれよな?」
何か言いたげな唯をリトの声が遮る
唯はまだゴニョゴニョと何か言おうとするが、しばらくするとコクンと首を振った
「ゆ、ゆーきくんにお願いするけど、ちゃんとちてね!」
「任せとけって!」
そして、髪を馴染ませる事、数分
洗い終わった唯の姿にリトは満足そうに頷く
「よし!これでいいんだろ?」
「うん」
「にしても、お前、毎日よくこんな手間のかかる事できるなァ?」
唯は鏡の中のリトから視線をそらす
「だって…ゆーきくんが唯の髪好きってゆーから唯…」
「え?」
「な、なんでもないの!」
「ふ~ん。で、体はどーするんだ?一人できる?」
「え?…あ」
唯は体をもじもじさせると、恥ずかしそうに俯く
「…ゆ…ゆーきくんにしてほちい…」
リトはクスっと笑うと、スポンジにボディソープを付けていく
普段の唯なら中々聞けない言葉が少しうれしかった
「じゃ、背中から洗っていくな?」
「…うん」
唯の声は小さい。心なしか体が火照っている
(それにしても小さいなァ)
背中を洗いながらリトは今さらながらそう感じてしまう
いつもと違う広さと肌触り
(ヤバイなオレ…)
ふつふつ湧き上がるモノに堪えるリト
「…ゆーきくん。背中ばっかちいたい…」
「え!?あ…ゴメン」
リトは手を止めると慌てて唯の前に座る
「じゃ、じゃあ今度は前な」
「……」
無言の唯にリトは怪訝な顔をする
「どーし…」
「ゆーきくん、ジロジロ見たりちたらダメだからね!」
真っ赤になりながら釘を刺されたリトはその場でうな垂れた
リトは極力体を見ないようにするが、それではうまく洗えるはずもなく
チラチラと覗き見るように、なんとか手を進めていた
唯はさっきから真っ赤になったままそっぽを向いている
どうやらかなり恥ずかしい様で、小さく体が震えていた
「心配しなくても大丈夫だって!」
「い、いいの!唯のコトより体あらってほちいの!」
リトは苦笑すると、洗い終わった腋から胸へと手を移動させ、そこで固まった
(ペ、ペッタンコ!!?)
当たり前だが今の唯は小さくなっているワケで、当然胸も年相応になっている
「どーちたの?」
「何でもねーよ!何でも!…ハハ」
笑って誤魔化すも目は胸から離れない
ちっとも膨らんでいない胸にさくら色をした可愛い乳首
いつものあの形のいいキレイな胸とのギャップにリトは見とれてしまう
ゴクリと唾が喉に落ちていく
(ってオレ、何考えてんだ!?)
リトは急いで胸の周りを洗うと、次に脚を洗っていく
華奢で折れそうなほど細い脚なのに、白くてすべすべした太ももや足に胸が高鳴る
目も自然と太ももの間、唯の大事なところにいってしまう
(ヤ…ヤバイ!これはヤバイ!)
急に洗うスピードが上がったリトを唯は不思議そうに見ている
「ゆーきくん?」
「な、何でもない!何でも!気にすんな!」
「う、うん」
幼い純真な視線がやけに痛い。いつもならハレンチな!で吹っ飛ばされるはずが、今日はそれもない
リトはバクバクと鳴り続ける心臓に急かされるように、シャワーで泡を洗い流していった
「と、とりあえずこれで終了な」
「ありがと」
恥ずかしさとうれしさが入り混じった唯の表情が今のリトにはとても痛く感じた
そのまま湯舟に戻ろうとするリトの手を唯はキュッと掴む
「へ?」
「ゆーきくんは洗わないの?」
「オレ?」
唯は頷くと、モジモジと指を絡ませる
「きょ、今日は唯があらってあげてもいい…かな。さ、さっきのお礼…」
恥ずかしさで体を揺らせながら、それでも頑張って話す唯にリトの胸は一瞬でとろける
さっきまでの焦りなんて忘却の彼方だ
リトは満面の笑みを浮かべると、イスに座った
「じゃあお願いします」
「うん」
力を込めて一生懸命ゴシゴシと背中を洗う唯に、リトはぼーっとなってしまう
くすぐったい感触すらある洗い方が妙に居心地がいい
そのクセになりそうな感触にリトは少しお願いしてみる
「なあ、元に戻っても、たまにはこんな風に洗ってくれないかな?」
「どーちて?」
「なんかすげーうれしいから!」
唯はスポンジの動きを止めた
「……ゆ、ゆーきくんが、唯のゆーことちゃんと聞いてくれたら考えてもいいかな」
「ホントに!?」
「う、うん。でもちゃんと聞かないとダメだからね!あと、ホントにときどきだからね!」
赤くなりながら何度も「時々だったら」と強調する唯
リトはうれしそうに頷くと、幸せの中に戻っていった
「今度は前を向いて」
「え!?ま、前はいいって!オレ、自分でするから」
赤くなりながらしどろもどろになるリトに、唯は頬を膨らませる
「だって、ゆーきくんも唯の体あらってくれたじゃない!唯だけふこーへーでしょ!?」
「不公平って……そういう問題じゃ…」
なんて言ってみるが、一歩も引きそうもないその視線にリトはしぶしぶお願いした
(昔からガンコだったんだなー)
もはや洗ってくれたお礼とかよりも、やり始めた責任と、中途半端は許せない気持ちだけで洗っている唯
そんな唯に苦笑を浮かべつつも、リトはさっきから気になっている事を尋ねる
「あのさ」
「今、いそがちいから後!」
「いや…その…いいのか?丸見えんなんだけど。いろいろ…」
上から下までジロジロと見ているリトの視線に唯の体が固まる
洗うのに夢中で、体を隠していたタオルが外れていた事にまるで気付かなかった
「み、見ちゃダメーー!!」
唯は真っ赤になってしゃがみ込むと、腕で体を隠す
リトが差し出すタオルを手に取ると、後ろを向きながらいそいそと体に巻いていく
(やっぱいろいろ違うんだァ)
その愛らしい後姿を見ているだけで、なんだか抱きしめたくなる衝動に駆られる
「どーちてニヤニヤちてるの?」
良からぬ妄想をしていたため、唯がこっちに振り返っていた事に気付かなかったリト
「ヘンなコト考えたらダメだからね!!」
「へ、ヘンなコトって!?」
「…ハ、ハレンチなコト」
俯きながらぼそぼそ話す唯は、リトのソレをチラチラ見ている
「へ?」
リトは自分のモノを見て絶句した
見事なまでに反応し、反り返っている大事なモノ
(ちょ…コレはシャレになんねーーー!!)
リトは慌ててタオルで前を隠すと、苦笑いを浮かべる
その態度に唯はますます顔を赤くさせた
「も、もーいいからさ!後はオレが…」
「最後までする!」
唯は赤くなりながらもムッとリトを見つめた
「だって、するってゆったの唯だもん。だから責任あるの!」
「せ、責任って…」
「いいの!」
唯はリトからタオルを奪い取ると、ゴシゴシ洗い始める
どんどん泡塗れになっていくリト。少しすると唯の手がリトの大事なところにかかる
「あ、あのさ、ムリしなくても…その大丈夫か?いろいろ…」
「だ、だ、だいじょーぶ!コレぐらいへーきなの!」
そう言いつつも、その顔は沸騰寸前だ
見ないように、触らないようにそーっとそーっと洗っていく唯
(何かすげー罪悪感…)
彼女とはいえ、幼い女の子にさせていい事じゃないと改めて痛感するリト
けれど、一生懸命洗ってくれる姿にうれしくなるのも事実
小さくて、相変わらず素直じゃなくて、怒りっぽくて
そして、少し泣き虫になっていて
小さな唯は、普段の唯と少し違うけれど、やっぱり唯は唯だと感じる
(子供ができたらこんな感じかな…)
頭に過ぎる妄想に、つい顔がにやけてしまうリト
脚を洗い終わると、シャワーでキレイに泡まで落としてくれる唯に、リトは笑みを深くした
「ありがとな唯」
「べ、別に唯はお礼ちたかっただけで…」
モジモジと体を揺らす唯に、リトはお礼の意味を込めて、その赤くなっている頬にキスをした
「あ…!!?」
可愛いほっぺをさくら色に染める唯
「オレもお礼な」
にっこり笑うリトに唯は何も言えず、ただぼーっとキスの余韻に浸っていた